楽園の瑕
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その日もサラーラは初め庭に出る気はなかった。 しかしサラーラの体調を案じたノーザが少しでも気分転換をと散歩を勧めたのだ。 「サラーラ様、 今日はいいお天気ですわ。 少しは体を動かされないとお腹の御子 にもよくありません。 ほら、 日差しも温かいですし、 お散歩なさいませ」 ファビアスが政務に出ていった後、 ぼうっと窓から外を眺めていたサラーラにノーザが 何とかサラーラを外に連れだそうと言葉を尽くす。 散歩と聞いてクルシュがサラーラの足元に近寄り尻尾を振る。 「クルシュも外に出たがっております。 一緒にお庭を散歩いたしましょう」 「うん………」 「秋が深まったとはいえ、 まだまだお庭には色々な花が咲いておりますよ。 サラーラ様、 お花が大好きでいらっしゃいますよね。 陛下も庭のお花はどれも摘んでよいとおっしゃって おられます。 この部屋に飾る花を探しにいきませんこと? 部屋をお花で一杯にして陛下を びっくりさせましょう」 「うん……そうだね」 ファビアスを驚かせるという案に心惹かれたのか、 サラーラが笑って見せた。 その笑顔にノーザがほっとする。 懐妊がわかってから、 サラーラはまた物思いにふけるようになった。 なかなか体調が安定しないせいもある。 妊娠中は心が不安定になるとも聞いている。 朝、 ファビアスが部屋を出て行くときにひどく寂しそうな様子を見せるサラーラに、 ノーザは なんとか元気になってもらおうと心を尽くした。 気が変わらないうちにと、 手早く外出の準備をする。 寒くないように、 大事な体に障らないようにと厳重に衣服を整え、 庭に従う護衛兵を呼ぶ。 気が逸るのか、 クルシュは部屋の中を駆け回っている。 「クルシュ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。 ほら、 行こう」 やっとその気になったのか、 サラーラが笑いながら先にと部屋を飛び出すクルシュの 後に続く。 「サラーラ様、 足元にお気をつけください!」 今にも走り出しそうなサラーラに、 ノーザがはらはらと声をかける。 「走ってはなりません! サラーラ様っ ゆっくりと……」 「わかってる」 何度も注意するノーザに笑いかけながら、 サラーラはそれでも彼女の言うとおり、 ゆっくりと 城の廊下を歩いていった。
庭に出たサラーラは薄いピンク色の大輪の花が咲いているのを見つけ、 歓声を上げた。 「あんな大きな花初めて見るよ。 きっとファビアス様も見たことがないんじゃないかな。 僕、 摘んでくる」 そう言ってそちらに足を向ける。 一緒に庭に出たクルシュは近くを飛んでいた鳥を見上げながら追いかけるのに夢中だった。 「サラーラ様っ お足元にお気を付けくださいませっ」 草が生い茂った庭は、 あちこちに石や木の根っこなど見えない障害物がある。 自分を置いて先へと行ってしまうサラーラにノーザは心配そうな声を出した。 「大丈夫だって、 ノーザ、 ほらちゃんと………あっ」 笑って目当ての花に手を伸ばしたサラーラは、 しかしその足元に大きく伸びた根に足を取られ、 大きくバランスを崩した。 「サラーラ様っ!」 ノーザの悲鳴が聞こえる。 転ぶっ そう思ったサラーラは、 無意識に体を丸めようとした。 が、 サラーラに付き従っていた衛兵がさっと腕を差し出した。 その手に助けられ、 何とか転ぶことだけは免れる。 「お体は大丈夫でございますか?」 「あ、 ありがとう………」 助けてくれた衛兵の腕につかまりながらサラーラは礼を言った。 「サラーラ様っ」 ノーザが顔を青くして駆け寄ってきた。 「サラーラ様っ お体はっ どこもお怪我などっ? 誰か医師を……っ」 「ノーザ、 僕は大丈夫だから。 ほら、 なんともない」 おろおろと医師を呼ぼうとする侍女に、 サラーラが笑って見せた。 「あら、 どなたかと思えば珍しい方がいらっしゃること」 その時、 庭の向こうから一人の女性が姿をあらわした。
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