楽園の瑕

 

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    サラーラ懐妊の事実はすぐに城中に広まった。

  にわかに城内が色めき立つ。

  ファビアスにはまだ子供は一人もいなかった。

  サラーラが王子を産むと、 その王子が次期皇太子の座につくことになる。

  国の重臣達は、 すぐさま王城へと馳せ参じた。

  その表情は様々だった。

  王家の血統を継ぐ命の誕生に喜びをあらわにする者、 自分の娘をファビアスの妾妃にと

もくろんでいた者は落胆を隠しきれなかった。

  亡国マナリスの血を引くということで不快をあらわにするものもいた。

  そして、 元ファビアスの愛妾だったモルディアも衝撃を受けた者の一人だった。









 「懐妊? ファビアス王の子を身ごもったですって?!」

  モルディアは侍女の知らせに衝撃に受けた。

  わなわなと体が震え出す。

  自分の野望がまた遠のくのを感じた。

  こんなに早く懐妊するなんて……! 

  サラーラの忌々しい顔が浮かぶ。

  口惜しさにぎりりと歯軋りする。

  何度もファビアスに手酷い拒絶を受けた後も、 モルディアは全てを諦めたわけではなかった。

  いずれは半陰陽という物珍しさも薄れ、 ファビアスはサラーラに飽きるだろうと思っていた。

  どうせあのような化け物への寵愛など長続きはすまい。

  そのうち飽きたファビアスはサラーラを正妃の座から放り出すだろうと。

  その時にはまた自分がファビアスの寵を取り戻すのだ。

  それだけの力が自分にはある。

  モルディアはそう信じていた。

  だから、 ファビアスが完全に自分から離れた後も城内に与えられた部屋に居座り、

虎視眈々と機会を窺っていたのだ。

  それなのに………

  悔しさに歯噛みする彼女の元に、 来客を告げる声がした。

  入ってきたのは彼女の父親、 タルア公だった。

  固く強張り厳しい顔つきで、 娘の部屋に重々しい足取りで入ってくる。

 「お父様……っ」

  モルディアは父の姿に思わず駆け寄った。

 「あの者が……マナリス王子が王の子供を身ごもったというのは本当ですの?!」

 「うむ………」

  娘の言葉にタルア公はさらに苦虫を噛み潰したような顔になった。

  彼もサラーラの懐妊を面白くないと思っている者の一人だった。

  いずれは自分の娘モルディアをファビアスの正妃に、 と密かに目論んでいたのだ。

  モルディアがファビアスの愛妾になったときには小躍りするほどに喜んだ。

  もう少しで自分は未来のタラナート王の義父となれるのだと。

  そしてモルディアが王子を産み、 その王子がタラナート王となる。

  タラナート王の祖父となった自分を夢見ていたタルア公にとっても、 サラーラの登場は

忌々しさ以外の何者でもなかった。

  サラーラを正妃に、 とファビアスが宣言した時には憤りで真っ赤になった。

  自分の野心ががらがらと崩れ落ちていく。

  後に残されたのは苦々しい悔しさだけだった。

  タルア公はファビアスの寵を取り逃がした娘の顔をじっと見つめた。

  この娘のどこがいけないのか。

  これほどに美しい娘は国中捜してもそうはいない。

  その上、 モルディアの母、 タルア公の妻はファビアスの母の従姉妹。

  その血筋は他の追随を許さないものだった。

  だがファビアスはマナリスからあの半陰陽を連れ帰ったときからこの娘に見向きもしなくなった。

  そしてサラーラを正妃の座に据えてしまった。

  モルディアを捨てて。

  タルア公爵の胸の中にはその時からファビアスに対する怒りの念が生まれ、それは日を追う

ごとに大きくなっていった。

  そしてサラーラの懐妊の知らせに自分の野心は完全に打ち砕かれた。

  どこにもぶつけようのない怒りに襲われる。

 「お父様っ どうにかなりませんのっ? このままあの化け物が王の子供を産むのを

みすみす見てるなんて……っ」

  モルディアが憎悪もあらわに訴える。

 「子供さえいなければ……っ」

  自分のその言葉にはっとする。

  そうだ。

  サラーラが子供を産まなければ………何かの事故ででも。

  子供がいなくなれば、 また自分にもチャンスが訪れるかもしれない。

  見ると、 父親もモルディアをじっと見ていた。

  その目には何かを企む光が点っていた。

 「お父様………」

 「子供………流産、 か。」

 「そうですわ。 ……何かの事故で子供が流れてしまうのはよくあること。 ましてや

サラーラは半陰陽。 普通の女よりも子は流れやすいかも……」

 「事故か………果たしてどのような事故がいいかな。」

  タルア公が娘の言葉に暗い笑みを浮かべた。

 「何か大きな衝撃を。 ………そう、 誰かに襲わせるのもいいかも。 マナリスの王子が

正妃の座にあることを快く思わないものは少なくありませんもの。 王子が産まれることを

案じた何者かが愛国心ゆえにそれを阻もうとしてもおかしくありませんわ。」

 「愛国心………わがタラナート王家に亡国マナリスの血が混じるのはどうにも許せぬ

ことだな。」

 「そう。 それに上手くいけば子が流れたショックであの者も………」

  モルディアが父の言葉に大きく頷く。

  城の一角で、 野心に燃える父娘が暗い陰謀の華を咲かせ始めた。









                 
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