楽園の瑕
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翌朝になってもサラーラの体調はおかしいままだった。 心配したファビアスはその日の政務を全て取りやめてサラーラの側に付き添った。 後で医師に呼ぼうと思いつつ朝食を取る。 「ほら、 サラーラ、 口を開けろ。」 いつものように膝に乗せたサラーラの口にスープを掬った匙を持っていく。 おとなしく口を開いたサラーラは、 スープを口に入れた途端に顔色を変えた。 「ぐ…………っ う、 ぇっ、 うぇっ」 「サラーラッ」 ファビアスの膝から飛び降りて床にうずくまり、 胃の中のものをもどすサラーラに、 ファビアスが驚いた顔をした。 「サラーラッ どうしたっ」 苦しそうに肩で息をしながらサラーラは力なく首を振った。 目に涙が滲んでいた。 サラーラにもわからなかった。 ただ、 スープの匂いを嗅いだ途端、 どうしようもない吐き気に襲われた。 「誰かっ 医師を呼べっ!」 ファビアスが扉を開いて怒鳴る声が聞こえる。 ばたばたと人が走っていく音がする。 にわかに部屋の外が騒々しくなる。 ファビアスはすぐに戻ってきて、 サラーラの体を抱き上げた。 まだ吐き気に襲われ続けているサラーラは手で口を押さえたまま、 ベッドへと 運ばれた。 「サラーラ、 サラーラ……大丈夫か? しっかりしろっ」 苦しくて心配そうに名を呼ぶファビアスに答えることも出来ず、 サラーラはただ涙の 滲んだ目ですがるようにファビアスを見た。 「今、 医師が来る。 すぐに治してやるからな。」 気持ちが悪い。 胸がむかむかとして、 また吐きそうになる。 サラーラは言いようのない不安に襲われながら、震える手で自分にかがみこむ ファビアスの手をぎゅっと握った。
ベッドに横たわるサラーラの体を注意深く診ていく。 「どうだっ? サラーラはどこが悪いのだっ?」 心配のあまり怒鳴りそうになるのを必死に抑えながら、 ファビアスは医師の言葉を 待った。 サラーラの身に何かあればどうしたらいいのか。 ファビアスの心に重い不安がのしかかる。 もしもサラーラが死ぬようなことがあれば…… 想像するだけで目の前が真っ暗になる。 じっとしていられなくて、 ベッドの上のサラーラの手をぎゅっと握り締めた。 そんなファビアスの様子を見た医師は、 落ち着いた表情で脈を取っていたサラーラの 手を離すと、 にっこりと笑みを浮かべた。 「陛下、 ご心配はいりません。」 その言葉に緊張のあまり青ざめたファビアスが顔を上げた。 続きを無言で促がす。 「サラーラ妃は大丈夫です。 つわりが酷いのでしょう。」 ファビアスの表情が一変した。 「では……っ」 声が明るいものになる。 ベッドに今は眠っているサラーラを見る。 その目には喜びとまだ信じられないという気持ちが浮かんでいた。 医師は笑みを浮かべながら頭を下げて礼をとる。 そして、 ファビアスの待ち焦がれた言葉を告げた。 「おめでとうございます。 サラーラ妃、 ご懐妊にございます。」
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