楽園の瑕

 

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    タラナートの王都タラスの賑やかな酒場の一角で、 数人の男達が一目をはばかるように顔を

つきあわせていた。

  ひそひそと何事かを話し合うが、 その内容は喧騒にまぎれて周りには聞こえない。

 「……どうだ? 王子はいらっしゃるのか」

 「ああ、 確かに王城内のどこかに幽閉されているという話だ」

 「本当だったのだな。 マナリス王家にもう一人王子がいらしたという話は」

 「どういう理由でその存在が隠されていたのかは知らんが、 タラナート王が落城する城の

奥深くに隠された王子を見つけ、 この国に連行したということだ」

 「くそっ 幽閉とはまるで罪人ではないか。 由緒正しいマナリス王家の王子が…っ」

 「何とかお救い申し上げ、 マナリスへ……」

 「ああ、 王子を旗印にマナリス国の再興を…」

  男達はしばらくその場で密談を交わしていたが、 やがて一人、 また一人と目立たぬように

酒場を出ていった。













  庭の一件の後、 サラーラのファビアスへの態度は微妙に変化していった。

  少しづつではあるが、 笑みを浮かべるようになったのだ。

  仕事の合間に何やかやとサラーラの元へ赴くファビアスに、 甘える仕種さえ見せるように

なった。

  そんなサラーラの変化にファビアスは相好を綻ばせた。

  甘えるように自分に擦り寄るサラーラが愛しくて可愛くて仕方がない。

 「ファビアス様、 これは?」

  今日もファビアスが気晴らしにと持ってきたものを、 サラーラは床に座るファビアスの

膝にもたれながら珍しそうに眺めていた。

  きらきらと光るガラスの器の中には色とりどりの石が入っていた。

 「こうやって石を弾いて遊ぶんだ。 別の石に上手くあたれば勝ちだ」

  器の中から幾つか石を取りだして床の上に広げ、 指で弾いて見せる。

  カチンと軽い音を立てて赤い石が近くにあった緑色の石にぶつかる。

 「あっ、 あたった!」

  目を輝かせてサラーラもその細い指でぎこちなく石を弾いてみせるが、 石は見当外れの

方向に飛んでいってしまった。

 「ああ……あっちにいっちゃった……上手くいかない……」

 「親指で弾くんだ……こう……」

  もう一度ファビアスが見本を見せる。

  弾かれた黒い石が勢いよく床の上を滑り、 カチンカチンと赤い石、 緑色の石に順にぶつ

かって止まる。

 「二つあたった!」

 「これでこの二つの石は俺のものだ」

 「あっ ずるいっ」

  ひょいひょいと石を取り上げるファビアスにサラーラがふくれっつらをしてみせる。

  自分も負けじと石を弾いてみせるが、 やはり上手くいかなかった。

  わん!

  そこにクルシュが自分も混ぜろというふうに床に散らばる石の中に飛び込んできた。

  たちまちその場はめちゃくちゃになる。

 「あーっ クルシュっ! だめっ!」

  狙っていた石を前足で蹴散らされ、 サラーラが非難の声を上げた。

 「ははははっ!」

  むきになって怒るサラーラとくうん…とうなだれてみせるクルシュの姿がおかしくて、 思わず

ファビアスが笑い出す。

 「おかしくないっ!」

  笑うファビアスを見上げてサラーラがむっとした顔をみせた。

 「わ、 悪い……」

  まだくっくっと笑いながらファビアスはサラーラをその腕に抱き寄せた。

 「あまり怒るお前が可愛くてつい、 な」

 「可愛い? 怒ってるのに」

 「怒った顔が可愛いんだ」

 「………変なの」

  首をかしげるサラーラがまた可愛くて、 ファビアスはその白い額に口付けた。

  サラーラは額に触れるファビアスの唇を嬉しそうに受けた。

 「サラーラ、 お返しだ」

  自分の唇を指差すファビアスに、 サラーラは恥ずかしそうに顔を寄せる。

  首に両腕を回してそっとキスする体をファビアスは愛おし気に抱きしめた。

 「サラーラ、 愛してる」

 「うん………」

  愛してると告げるたびに、 サラーラは満ち足りたように微笑んで見せる。

  それが見たくてファビアスは日に何度も愛の言葉を囁き続けた。









                   
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