楽園の瑕
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リカルドの予想どおり、
ファビアスは二日の間部屋に閉じこもり外に出ようとしなかった。 食事すら扉から差し入れさせるだけで、 中に人を入れさせようとしない。 そして二日目の昼過ぎになって、 ようやく部屋の外に姿を現わした。 そのまま何事もなかったかのように、 リカルド達の待つ執務室へと去っていった。 部屋の外にずっと控えていた侍女のノーザは、 ファビアスからサラーラの世話をするように 命じられ中に入ってたじろいだ。 まだ房事の後を色濃く残す空気の中で、 サラーラはぐったりとベッドに横になっていた。 一応、 衣服は身につけてはいたが、 過ぎた情事にやつれた顔色は隠せなかった。 ファビアスの情熱のほどがわかる。 その日、 次の日と、 サラーラは自分で立って歩くことさえ出来ないくらいだった。 体の芯に何かが詰まっているかのように体が重い。 指先までだるく、 喉はひりひりと痛み声すら満足に出ない。 ファビアスは一時もサラーラを離そうとしなかった。 嫌だと抗っても泣いても決して許してくれなかった。 ベッドの上、 ソファの上でサラーラを抱き続け、 体を繋ぎ続けた。 食事の時でさえ体を離そうとしなかった。 膝の上にのせたサラーラの中に自分の分身を納めたまま、 裸体で平然と食事をする。 「ほら、 サラーラ。 この果物はどうだ。 美味いぞ」 体の中のものが気になって食事どころではないサラーラの口に果物を差し出す。 「ファビアス様……お願い……」 泣き出しそうになりながら身を離してくれと懇願してもだめだった。 「だめだ。 お前の中に俺を刻みこんでやる。 俺を受け入れているのが当たり前だと感じる ほどに、 俺なしではいられないほどに抱いてやる」 「そんな………」 「サラーラ、 愛してる。 愛してるからお前を離せない。 俺から決して離れられないように しなければ」 「あ……っ」 そう言いながら背中に手をすべらされ、 サラーラは敏感に反応した。 白い双丘を撫でられて、 ファビアスを受け入れた場所がきゅっと締まる。 「これはどうだ。 柔らかいぞ」 差し出された肉にサラーラは首を振る。 食欲などない。 「食べないと身が持たないぞ。 それならこれはどうだ」 別の鶏肉を差し出され、 またサラーラは首を振るしかなかった。 ファビアスが料理を取ろうと動くたびに、 体の中のものが動いてサラーラを喘がせる。 「じゃあせめて飲み物でもどうだ」 そう言って口移しにワインを飲まされる。 「んん………」 唇を塞がれ、 中に注ぎ込まれる強い酒にサラーラは酩酊する。 何も入っていない胃が酒に焼かれる。 体の中からカッと熱くなる。 「ファビアス様……っ お願い、 もう…もう…っ」 ついに泣き出して懇願する。 抱いてくれ、 動いてくれと首に縋りつく。 そんなサラーラにファビアスは会心の笑みを浮かべ、 またさらなる快感をサラーラに与える ために愛撫の手を伸ばすのだった。 ファビアスに一日以上間断なく抱かれ続け、 サラーラの体と心が次第に変化していく。 彼を身の内に受け入れ続けたサラーラは、 最後には彼が中に納まっている状態に何の 違和感も感じなくなっていた。 それどころかファビアスが中にいると感じると安心感さえ生まれるようになった。 ファビアスがやっと満足してサラーラから身を離したときには、 サラーラの方が体の 中の一部がなくなったように心もとなく感じるようになっていた。 「行ってくる」 そう言って、 疲れ果てて動けないサラーラの額に口付けるファビアスに、 サラーラは 縋るような目で見つめた。 「………すぐに、 戻ってくる……?」 小さく囁かれた言葉にファビアスは破顔した。 「ああ、 すぐに戻る」 そう言ってもう一度口付けるファビアスに、 サラーラは重い腕を持ち上げて首に縋りついた。 サラーラの唇に押し当てられた口が笑みにゆがむ。 あれほど抱いたのに、 また抱きたくなってくる。 「サラーラ、 愛してる」 唇を離してそう耳元で囁く。 二日間、 ファビアスに抱かれながら降り注ぐように囁かれ続けた言葉にサラーラが薄く 微笑む。 まだ愛してるというファビアスの言葉の意味をはっきりと理解した訳ではない。 しかし、 その言葉に感じる温かい何かはサラーラの心の中に安らぎをもたらした。 「早く、 帰ってきて………」 すでに側にいる事が当たり前になったファビアスが、 政務のためとはいえ自分から離れる ことがどうにも寂しく思える。 「すぐに戻るから、 それまでおとなしく寝ていろ」 ファビアスは心細気に自分を見るサラーラが愛しくてならなかった。 また手を伸ばしそうになって必死に押さえる。 こんなことではいつまでたっても部屋を出ることができない。 後ろ髪を引かれながらも、 しぶしぶ部屋を出ていくファビアスをサラーラはじっと見送っていた。 昨日、 あれほどもやもやとしていた不安はいつのまにかどこかに行ってしまっていた。 ファビアスはもうあの綺麗な人とは何の関係もないと言った。 それが何故こんなに自分に安心感をもたらすのかわからない。 でも、 自分だけを見ているファビアスを見るのは心地よかった。 心の中がくすぐったく、 それでいて温かい。 抱かれ続けた体は重く起きているのが辛いほどだった。 しかし、 サラーラの心は穏やかに温かかった。 「早く戻ってきて………」 たった今出ていったばかりなのに、 もうファビアスの顔が見たかった。 夜にはまた会える。 早く夜になればいいのに。 そう考えながら、 サラーラはうつらうつらと夢の世界へ入っていった。
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