楽園の瑕
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険しい顔のままファビアスが声のした方に顔を向ける。 部屋の入り口でリカルドが苦笑して立っていた。 「そんな所で何をしている。 ここは王妃の間だぞ。 立ち入りを許した覚えはない」 「無礼は承知の上です。 お許しを。 しかしいつまで経っても王は執務室にいらっしゃらないし このままでは本日の予定が全て狂ってしまいます。 陛下の忠実な家来としましてはこのまま 放っておくのもいかがかと。 ………案の定、 当の陛下は仕事をお忘れになっておられるご様子 ですし」 「リカルド………」 やんわりとたしなめられたファビアスは苦虫をつぶしたような顔をした。 「忘れていたわけでは……」 「はいはい。 妃殿下のことが気になって仕方がないのですよね。 ………お初にお目に かかります、 サラーラ様。 陛下の腹心の一人、 リカルドと申します」 にこやかな顔でリカルドはファビアスの腕の中にいるサラーラに優雅にお辞儀をして見せた。 突然現われた見知らぬ青年に、 サラーラが今の状況も忘れて目をぱちくりとさせている。 ファビアスが憮然とした顔で、 「自分で腹心と言うな」 とつぶやく。 「近くで見るとますますお美しいですね。 陛下が夢中になるのもわかります。 もし陛下に いじめられたら私におっしゃってください。 陛下とは幼い頃より親しくさせていただいております。 もちろん、 陛下の弱みも重々………」 「リカルド!」 ニコニコと言葉を続けるリカルドに、ファビアスがたまりかねて大声を出す。 その声にぼうっとリカルドを見ていたサラーラがはっとしてまた身を固くした。 「もういいだろう。 わかった、 すぐに行く。 先に行っていろ」 「わかってくださればよろしいのです。 陛下もサラーラ様の可愛い嫉妬にそんなにむきに ならずとも……」 「嫉妬?」 「お気づきにならなかったのですか? サラーラ様はモルディア殿に嫉妬されたのですよ。 あなたの愛人だったと聞いて。 ご自分ではまだ気持ちにお気づきになっておられないよう ですが」 思ってももみなかったことにファビアスは呆然とする。 サラーラが嫉妬………モルディアに…… 自分と彼女が一緒にいるところを見て………昔関係があったと知って……? 思わず腕の中のサラーラを見下ろすが、 強張った表情のままじっと身を固くしている。 二人の話を聞いても何のことが理解していないようだった。 だが、 ファビアスは無意識にでもサラーラが自分のことで嫉妬してくれたということに 嬉しさがこみ上げてくる。 頬が弛むのを止められない。 「………陛下、 やに下がってますよ」 揶揄するリカルドの言葉はすでにファビアスの耳には入っていなかった。 「リカルド」 じっとサラーラを見つめたまま、 腹心の名を呼ぶ。 リカルドは何かと眉をあげるが、 ファビアスの言いたい事はなんとなくわかっていた。 「今日の予定は全て中止だ。 後はお前に任せる」 「………やっぱり」 想像どおりの言葉についため息をつく。 「陛下。 仕事がたまっておりますが」 「後だ」 「今日も明日も予定が目白押しです」 「何とか調整しろ」 「国王なんですよ、 あなたは」 「国王だから、 たまには好き勝手させろ」 いつも好き勝手しているではないか、 という言葉はかろうじて口にしなかった。 「………わかりました。 お気が済んだらお呼びください」 そう言いながらも今日明日は無理だろうなと予想する。 執務室に山積みになっている仕事をどうやって調整しようかと、 リカルドは頭の中で思案 しながら部屋を退出していった。 ファビアスは他の侍女や衛兵にも部屋を出るように命令する。 「俺が呼ぶまで誰も入るな」 そう言い置くと、 寝室の間にサラーラを抱き抱えて入っていった。
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