楽園の瑕
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触らないで…っ サラーラの突然の激しい拒絶に呆然としていたファビアスだが、 ショックが収まるにつれ 今度はじわじわと怒りがこみ上げてきた。 自分を拒絶するなど許せない。 「………ノーザ」 低く静かな声でサラーラに付かせた侍女の名を呼ぶ。 「は、 はい……っ」 名を呼ばれたノーザは、 その静かな声にファビアスの怒りを知った。 慌てて頭を下げる。 「何があった? 朝食の時にはあれはいつもどおりだった。 今朝、 俺が部屋を出た後に何が あったのだ」 この急な態度の変化には何かがあるに違いない。 そう感じたファビアスはずっとサラーラの側についていたはずの侍女に問いただした。 その間もサラーラは身を震わせてソファの上にうずくまっている。 全身でファビアスを拒否していた。 「特には…………いつものとおり陛下をお見送りした後はしばらくはクルシュの相手をされて、 その後そのソファでお茶をされて少しお休みに………あ……」 ノーザが何かに気付いたように手で口を覆った。 その仕種をファビアスが見逃さない。 「どうした」 鋭い問いかけにノーザはおずおずと口を開いた。 「あの………窓から外をご覧になっていた時に………陛下のお姿を……」 「俺の?」 思わぬ言葉にファビアスが眉をひそめる。 「はい。 ………庭にいらっしゃるところを………あの、 モルディア様とご一緒に……」 「モルディアと一緒のところをサラーラが?」 「サラーラ様はあれはどなたかと………だから私思わず……」 「モルディアのことを話したのか?!」 「申し訳ございません!」 ノーザは恐れ入ったように深く頭を下げた。 その姿をファビアスは舌打ちしながら見ると、 サラーラの方に向き直る。 「サラーラ」 名を呼ぶと、 ソファの上でますます身を固くする。 自分の言葉さえ拒絶しようかというその頑なな態度に、 ファビアスはため息をついた。 「サラーラ………モルディアのことは気にするな。 もう終わったことだ。 今は彼女とは 何の関係もない。 お前だけだ」 言いながらそっと近づこうとする。 「サラーラ………」 「いやっ!」 しかしその体に触れようとした手をサラーラは激しく振り払った。 「触らないでっ!」 「サラーラ、 いいかげんにしろ。 何をそんなに怒っている」 なおも自分を拒むサラーラに、 もともとそう気の長い方ではないファビアスは苛々と してきた。 「サラーラ…!」 「いやあっ! 触らないで…っ! 僕に、 そんな手で……あ、 あの人にもおんなじように 触った手で……っ」 強引に体を抱き寄せようとするが、 サラーラはじたばたと身をよじって叫んだ。 「いやっ いやっ 汚い……っ」 サラーラが思わずつぶやいた言葉にファビアスがついにかっとなった。 「……汚い…だと?」 「ひ……っ!」 サラーラの抗いをものともせずに、 力任せに引き寄せる。 そのまま片手で体を拘束すると、 もう片方の手でその白い髪を掴み、 ぐいと顔を仰向ける。 「俺が汚い、だと?」 「あ……」 怒りに燃える瞳を間近に見て、 サラーラが怯える。 「いくらお前でも俺を罵倒することは許さない。 俺は王だ。 この国の、 そしてお前の主だ。 俺に逆らうな」 「あ……あ……」 ぎらぎらと光る瞳に怯えたサラーラは、 先ほどまでの激しい抗いも忘れてただがたがたと 体を震わせるだけだった。 「陛下。 もうその辺でよろしいでしょう? 妃殿下が怯えていらっしゃいますよ」 と、 のんびりとした声がその場の緊迫した雰囲気を破った。
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