楽園の瑕

 

39

 

 

 

    ファビアスは腕一杯に白い花々を抱えてサラーラの部屋へと向かった。

 「陛下、 私が……」

  武運で鳴らした国王自ら花を抱えている、 初めて見るにわかには信じられない光景に

側に控える衛兵が恐る恐る自分が持とうと申し出る。

  あまりの異様さに恐ろしささえ覚えたのだ。

  しかしその申し出をファビアスはあっさりと断った。

 「いい。 俺が持っていく」

  自分の手からサラーラに渡してやりたかったのだ。

  部屋にこもりきりのサラーラに気分転換をさせてやりたかった。

  部屋の外へはまだ出してやることは出来ないが、 少しでも彼の明るい顔が見たかった。

  以前、 自分に向けてくれた笑顔が欲しいと思った。

  この花々を見てどんな顔をするだろう。

  手渡すときのことを想像して、 ファビアスは心が沸き立つのを感じた。











 「サラーラ? 起きているのか?」

  部屋に入るなり、 ファビアスは窓際のソファにうずくまるサラーラの姿を見つけた。

  ファビアスが声をかけても顔を上げようとはしない。

 「どうした? まだ具合が悪いのか? ………ほら、 今日はお前にこれを持ってきた」

  そう言って差し出される花の香りに気付き、 サラーラが顔を上げた。

  目の前に溢れる白い花々に大きく目を見開く。

 「きれい………」

  心を奪われたかのようにぽつんとつぶやかれた声に、 ファビアスが破顔する。

 「お前にだ。 たった今庭で摘んできたばかりだ」

  しかし、 その言葉にサラーラは花に伸ばしかけていた手を止めた。

  先ほどの女性と仲むつまじく歩いていたファビアスの姿を思い出す。

  あの人と一緒に摘んできたの……?

  そう問いかけそうになる。

  女性が微笑みながら花を手折り、 ファビアスに手渡す姿が目に浮かぶようだ。

  そしてそれを笑顔で受け取る彼………

  そこにはサラーラの知らない世界があった。

  ファビアスが寵愛していた人……

  侍女の言った言葉がサラーラの心に突き刺さる。

  寵愛していた………ファビアスが愛した人。

  彼がその腕で彼女を抱いたのだ、 今自分に差し出されているその手で。

  自分を抱くのと同じように彼女を抱くファビアスの姿。

  そして彼の裸体にしがみつく女の手………

  いやだ、 と思う。

  女性の手に触れられたファビアスに激しい嫌悪を感じた。

 「サラーラ?」

  じっと花を見つめたまま、 伸ばした手を握り締めるサラーラに、 ファビアスが不思議そうな

顔をした。

 「どうした。 ほら、 いい匂いだぞ」

 「いやっ!」

  再度差し出された花束を、 とっさにサラーラは払いのけていた。

  ばさりと花束が床に落ちる。

  足元を白い花弁が舞い散った。

 「サラーラ……?」

  突然のサラーラの行動にファビアスが驚いた。

 「この花は嫌いだったか?」

  理由もわからず、 ただ花が気に入らなかったのかと思う。

 「悪かった。 今度はまた別の………」

 「いやっ! 触らないで……っ」

  言いながら抱き寄せようとする腕を、 サラーラは身をよじるようにして避ける。

 「触らないで…っ あっちへ行って……っ!」

 「サラーラ………」

  激しく自分を拒絶するサラーラに、 ファビアスはただ呆然とするだけだった。









                   
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