楽園の瑕
27
サラーラ達の姿を見たという報告は、
次の日の午前中には早々と入った。 まんじりともせずに夜を明かしたファビアスはその報告に無言で頷くと、 すぐに馬を用意するように言った。 自分の手でサラーラを捕らえるつもりだった。
城の中の、 ましてや綺麗に飾られた部屋の中しか歩いた事のない二人にとって がたがたの土の上は、 辛いものでしかなかった。 すぐに足が痛み出す。 その上、 真っ暗な夜中だったこともあり、 見えない傷害物に足を取られて何度も 転びかけ、 そのたびに手足が泥に汚れていく。 朝日が昇ったころには、 二人ともすでに疲れ果てていた。 重い足を必死に動かして、 少しでも遠くに、 城から離れようと歩く。 「サラーラ様……早く……」 肩で息をしながら歩くサラーラを乳母が焦った顔でせかす。 「う、 うん……」 サラーラは乳母に遅れないようにと痛む足を動かし続けた。 だが、 そんな二人をあざ笑うかのように、 背後から近づく馬の音がした。 乳母の顔が恐怖に引き攣る。 「サラーラ様っ 早くっ 走ってっ!」 必死に先を急ごうとするが、 無情にも馬の足音はだんだんと近づいてくる。 遠くに姿が見えたと思うと、 見る間にその姿は大きくなった。 数人の兵を連れたファビアスが、 二人の前に立ちはだかる。 馬上から二人を見る目は冷酷な光を放っていた。 ファビアスは凍りつくような冷ややかな声で言った。 サラーラは今まで聞いたことのない口調に身を強張らせた。 自分を見る目が今までとは違う。 あの優しく暖かい光が、 今のファビアスにはなかった。 がたがたとサラーラの体が震え出す。 その青ざめた顔をファビアスは目を細めてじっと見ていた。 おもむろに馬の背から降りると、 無言のまま二人に近づく。 知らずサラーラの足が後ろに下がる。 「サラーラ様……っ」 乳母がサラーラの身を庇うように前に立ちふさがった。 その姿にファビアスの足が止まる。 ファビアスは乳母を憎々しげに見ると、 背後の兵に向かって指をしゃくった。 「……この女を連れていけ。」 兵士達が命令に従って乳母に近づく。 「ばあやっ!」 サラーラは顔色を変えて乳母にすがろうとした。 「ファ、 ファビアス様……っ お願いっ ばあやを連れていかないでっ」 ファビアスに向かって涙を浮かべながら訴える。 しかし、 ファビアスの目が和らぐことはなかった。
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