楽園の瑕
24
傍らにあった温もりが離れる気配にサラーラはそっと目を開けた。 見ると、 ファビアスがベッドから抜け出ようとしていた。 「……ファビアス様?」 急に寒くなったような気がして、 つい呼びかける。 「起こしたか?」 ファビアスは上体を起こしてこちらを見ているサラーラの頬に手をやった。 サラーラはまだ半分頭が眠ったまま、 無意識にその手に頬を擦りつける。 ファビアスは愛しそうにその仕種を見つめていた。
遠乗りから戻った二人は遅い昼食を部屋で取った。 以前、 サラーラがつい食べ物を口に運んだのがよほど気に入ったのか、 ファビアスは たびたび彼にその行為を促がすようになった。 今日もファビアスは自分の膝の上にサラーラを乗せると、 彼の口に食物を運んでやり ながら、 自分の口にも、 とサラーラの手を欲しがった。 それがいつの間にかベッドの上での行為に変わるのもいつものことだった。 午後の光の中で、 サラーラはファビアスの愛撫の手に翻弄される。 すっかり快楽を覚えた体は、 サラーラ自身よりもファビアスの手に従って艶かしく その肢体をうごめかせた。 「あ……っ、 あ……」 「気持ちいいか? どこに触れて欲しい?」 「あ…あ…も、 もっと……っ ファビアス様、 お願い……っ」 ファビアスの手に可愛い鳴き声を上げながら、 サラーラはさらに強い快感を求める。 そんなサラーラの嬌態をファビアスは愛しそうに見つめながら、 望むとおりの愛撫を 施していった。
「出かけなければならない。 明後日には帰る。」 「今から?」 ファビアスの言葉にサラーラは首をかしげた。 もう外は日が暮れかかっている。 「ああ、 本当は明日出発のはずだったが、 予定が早まった。 すぐにでも出かけねば ならない。」 「明後日?」 サラーラは少し寂しそうな顔をした。 明日はファビアスに会えない。 そう思ったサラーラの心が何故か沈んだ。 そんなサラーラの様子を嬉しそうにファビアスは見つめた。 「……俺がいなくて寂しいか?」 頬に手をやったまま、 甘く囁きかけた。 サラーラは何も答えず、 ただ目を閉じるとそっと頬を覆う手に自分の手を重ねた。 その仕種がサラーラの心情を雄弁に物語っていた。 「……なるべく急いで戻る。 いい子に待っていろ。」 ファビアスはサラーラの唇に深い口付けを送った。 そのまま首筋まで唇を滑らせると、 喉のくぼみにきつく吸いつく。 「っ!」 ちりっと走った痛みにサラーラが息を飲んだ。 「……俺が戻ってくるまでの代りだ。」 赤くついた印にファビアスは満足そうに指を滑らせる。 「行ってくる。」 もう一度サラーラの唇を軽く吸うと、 ファビアスは静かに部屋を出ていった。 急に肌寒さを感じる。 サラーラはべっどに横たわると、 上掛けに包まるようにして身を丸めた。 明後日…… サラーラは今からファビアスの帰りを待ち遠しく思いながら、 うつらうつらと夢の世界へ 入っていった。
「……ラ様。 サラーラ様……っ」 誰かがサラーラの眠りをさえぎった。 必死に名を呼びながら肩を揺さぶっている。 眠い目を開けると、 乳母が自分を見ていた。
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