楽園の瑕

 

20

 

 

 

    サラーラを抱きかかえたまま、 ファビアスは長い廊下を歩いていった。

  護衛の兵士達が後に続く。

  わんっ

 「あ、 クルシュ……」

  いつのまに部屋を抜け出したのか、 クルシュが二人の後を追いかけてきた。

  兵士が二人の前に立ちふさがり、 白い犬を部屋に連れ戻そうとした。

  犬は兵士達の手を巧みに逃れながら、 サラーラに向かって吼え続けた。

 「クルシュ……クルシュも外に出たいんだ……」

  その様子にサラーラはポツリとつぶやいた。

  そして訴えるようにファビアスの顔を見上げる。

 「一緒に連れていきたいのか?」

  サラーラの願いを悟り、 ファビアスは苦笑した。

 「まあ、 いい。 ……おい、 離してやれ。」

  とうとう兵士達に捕まり、 辺りに響き渡る声で吼え続ける犬を放すように命じる。

  兵士の手を離れたクルシュは大喜びでファビアスの足元にじゃれついた。

 「クルシュ……いつの間に……」

  甘えるようにファビアスにじゃれるクルシュを見て、 サラーラは驚いた顔をした。

  初めて会ったときは、 ファビアスに警戒心を剥き出しにしてうなっていたのに、

今はあの時の敵意が嘘のように、 ファビアスに尻尾を振って甘えている。

  ファビアスの顔を見ると、 ファビアスは照れたようにそっぽを向いた。

 「……お前の可愛がっている犬だから仲良くしたいと思っただけだ。」

  その言葉に、 サラーラの知らないところでファビアスがクルシュに付き合って

遊んでやっていたのだとわかった。

 「ファビアス様……」

  何故か嬉しくなって、 サラーラはファビアスの首にぎゅっと抱きついた。

  心の中がほんわりと暖かかった。









 「あ……すごい。 大きい……」

  サラーラは目の前に引き出された馬を見て、 怯えたようにファビアスに寄り添った。

  初めて間近に見る馬は、 想像以上に大きかった。

  戸惑うサラーラをよそに、 ファビアスは手綱を受け取るとひらりと背にまたがった。

 「サラーラ、 ほら。」

  手を差し出される。

  しかし、 怖気づいたサラーラはなかなかその手を取れなかった。

 「サラーラ? どうした。」

 「だって……怖い…です。」

  不審気な顔をするファビアスに、 サラーラは怯えた顔を向けた。

 「大丈夫だ。 俺が一緒だろう。 怖くないぞ。 ほら。」

  ファビアスは安心させるように笑いかけると、 サラーラの手を促がす。

  恐る恐る差し出された手を掴み、 腰に手を回してぐいとサラーラの体を持ち上げた。

 「あ……」

  次の瞬間、 サラーラは馬上にいた。

  地面を見てその高さに驚き、 自分の腰を支えるファビアスの腕をぎゅっと握り締めた。

 「大丈夫か? 行くぞ。」

  ファビアスはサラーラを手綱を持つ腕の中に囲うようにすると、 ゆっくりと馬の歩を

進めた。

  ファビアスの後を、 十数人の護衛の兵が同じく馬で従う。

  その横をクルシュが吼えながら駆けていった。









                   
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