楽園の瑕

 

13

 

 

 

   「サラーラ様?」

  乳母は部屋の真ん中で呆然と立っているサラーラに気付き、 不審な声を出した。

  サラーラの目線をたどって下を見て、 真っ青になる。

 「サラーラ様っ それは……!」

  血相を変えて側によると、 サラーラの足元にひざまづいた。

 「ばあや……」

  何が起こったのか理解できないサラーラは、 乳母を見て泣き出しそうな声で言った。

 「ばあや……気持ち悪い……」

 「サラーラ様……」

  まさか、 ファビアスはサラーラの純潔を奪ってしまったのか。

  絶望感が胸をよぎる。

  だが、 ふと、 腿を伝う白いものの中に血が混じっていないことに気付く。

  ではあの男はまだ……

  ひとまずほっと胸をなでおろした。

  だがそれは今だけのことなのだ。

  今夜こそはファビアスはサラーラの全てを自分のものにしてしまうかもしれない。

  乳母はそれを防ぐことのできないことに絶望感を募らせるしかなかった。

  なんとかしてサラーラをこの国から助け出す術はないのか。

  このままずっとサラーラはファビアスの慰みものとなってしまうのか。

  赤ん坊の頃から大切に育ててきた愛しい王子が……

  何か方法は……

  きっとあるはずだ、 どこかに……

  乳母はファビアスとの行為の跡を残すサラーラの姿を暗い目でじっと見つめながら、

この国を逃げ出す方法を頭の中で模索し続けた。







  ファビアスはじりじりとしながら政務をこなしていた。

  部屋に残してきたサラーラが気になる。

  今朝部屋を出るときもずっと眠ったままだった。

  はじめから少し無理をさせたか……

  自分を受け入れて泣きじゃくっていたサラーラを思い出す。

  自然に口元がほころぶ。

  泣き顔も美しかった。

  白い体を征服した時の今までに感じたことのないほどの満足感と充実感が脳裏に甦る。

  サラーラの体はどこもかしこも柔らかく、 そして甘かった。

  我を忘れて夢中になって貪ってしまった。

  一度では満足できず、 意識を失ったサラーラの体に二度、 三度と欲望を放ち続けた。

  このようなことは初めてだった。

  まるで十代のがっついた少年のようだった自分を思いだし、 ファビアスは苦笑するしか

なかった。

  サラーラの全てを奪ってしまわなかったことが奇跡だった。

  彼の女性の部分を自分のものにするのは、 正式に妃としてからにしようと心に

決めていた。

  サラーラが自分に心を許し、 自分を愛してくれるようになるまでは……。

  しかし昨夜の甘いひとときがファビアスの心を揺さぶる。

  早くあの美しい顔が見たい。

  腕の中にあの甘い体を抱きしめたい。

  ファビアスは逸る心を抑えながら、 早くサラーラの元に行けるようひたすら黙々と政務を

こなしていった。







  湯浴みを終え、 軽い食事をとったサラーラは部屋の中でだるい体をもてあましながら

ぼうっと寝椅子でまどろんでいた。

  部屋の外に出ることは許されなかった。

  扉の向こうには兵士達が目を光らせている。

  入用なものは乳母が兵士に伝えると、 すぐに用意された。

  だが、 それだけだった。

  窓から見える庭は遠く下方にあった。

  自分のいる部屋が城の上部に位置していることが分かる。

  そしてそれは窓からもどこからも逃げることは出来ないことを示していた。

  夕刻、 城の召使によって夕食が届けられるまで、 サラーラはただぼうっと部屋で

過ごすしかなかったが、 しかしそれは実は彼にとってそれほど苦痛なことではなかった。

  母国マナリスでも彼はずっと城の奥深く閉じ込められた生活をしていた。

  ほとんど外に出ることもなく、 生活の中心である自分の部屋とその外にある様々な花々に

囲まれた美しい庭だけが彼の世界だった。

  その生活と今の状態はあまり変わらない。

  大きく違っていたのは、 彼の立場だった。

  母国では王子であったサラーラは、 ここではただの虜囚でしかなかった。

  マナリス王子という肩書きは征服国であるタラナートでは何の意味も持たない。

  そして、 今は王となったファビアス。

  彼はサラーラを自分のものと言った。

  決して離さない、 とも。

  サラーラは自分が囚われた身であることを身をもって知った。

  昨夜のファビアスに抗うことは許されなかった。

  今夜もまた、 彼は来るのだろうか……

  サラーラは刻一刻と近づく夜に恐怖せずにはいられなかった。









                  
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