楽園の瑕

 

10

 

 

 

   「嫌い、 だと……?」

  低くうなるような声でファビアスがつぶやいた。

  サラーラを抱きしめた腕に力がこもる。

 「…っ! いた……い……」

 「俺が嫌いか? 触られるのも嫌か。」

  サラーラの口から出た嫌悪の言葉に、 ファビアスの心に暗いものが広がっていく。

  こんなに愛しているのに、 サラーラを助けるために父を王座から追い払い、その座を奪う

ことまでしてのけたのに……なのに、 自分を拒否するというのか。

  そのようなこと許せない。

  自分を拒否するような、 遠ざけるような真似はさせない。

 「……あの乳母がどうなってもいいのか?」

  ファビアスの口から暗い言葉が出る。

  サラーラはすぐにその意味を理解できず、 わからないという表情をした。

 「お前が俺をそんなに拒否するなら、 あの乳母を奴隷の身に落としてやる。 いや、

それくらいでは済まさないぞ。 一番酷な仕事につかせ、 死ぬまで痛めつけてやる。

お前には二度と会わせない。 それでもいいのか?」

 「! そんな……っ」

  サラーラの口から悲鳴のような声が漏れた。

 「俺を拒絶するな。 素直に受け入れるならそのような事はしない。」

  震える耳元にそうことさら甘く囁く。

 「俺を、 受け入れろ……」

  サラーラの顔に諦めの表情が浮かんだ。









  ファビアスはおとなしくなったサラーラをベッドに横たえた。

  そして自分もその横に身を重ねるようにして横たわる。

  腕の中の肢体がびくっと怯えるのがわかった。

 「力を抜け……」

  そう囁きながら、 サラーラの身体からゆっくりと布を剥ぎ取っていく。

  全裸で横たわるサラーラはとても美しかった。

  深い黒に近い紺色のシーツの上に浮かび上がる白い肢体が目にまぶしい。

 ふんわりと広がった白い髪が繊細な顔を縁取っていた。

  固く閉ざされた目を縁取るまつげが震えている。

  ポツンとまつげにとどまった涙を見つけ、 ファビアスはそっと唇を寄せた。

  涙を唇で吸い取り、 舌で瞼を舐め上げる。

  そのままこめかみ、 頬へと唇を滑らせた。

  手はサラーラの細い首から肩、 胸の形を確かめるようになぞっていく。

 「あ……」

  サラーラが小さな声を漏らす。

  その怯えた声に、 ファビアスは安心させるように鼻の頭に軽くキスをした。

 「怖がるな……酷いことはしない。」

  その声につられるかのように、 サラーラの目がゆっくりと開く。

  現われた赤い瞳に、 ファビアスの目が釘付けになった。

  じっと瞳を見つけたまま、 そのピンク色の唇に唇を寄せていく。

 「んん……」

  かすかに眉をよせて、 サラーラはファビアスの唇を受け入れた。

  甘い。

  ファビアスはその甘美な唇に酔う。

  夢中で舌を差し入れ、 あますとこなく蜜を吸い取ろうとした。

 「は、あ……」

  サラーラは先ほど前王に奪われたときとは違うファビアスの唇の感触に戸惑っていた。

  少しも嫌悪感を感じない。

  それどころか、 頭の中にじんとした甘い痺れが広がっていく。

  いつのまにか口腔を我が物のように動き回る舌に、 夢中になって応えていた。



 





                    
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