Ｄｅａｒ ｍｙ ｄｅａｒｅｓｔ
９９
| 「………どこに行こうか……」 デューク達が自分を探していることも知らず、ニコルはとぼとぼと街の中を歩いていた。 ベレーの家には戻れない。 いや、戻れば母達は優しく迎えてくれるだろう。 しかし……。 「やっぱり戻れない……」 幸せになりなさい、と家を出る時に母がぎゅっと抱きしめてくれたことを思い出す。 なのに、こんな形で帰っては皆を悲しませてしまう。 「母様や父様を悲しませたくないよ………」 くう…と、腕の中のトートが、ニコルの気持ちを感じたように小さく鳴く。 「トート……僕、どこに行ったらいいと思う？」 立ち並ぶ建物の壁際に立ち止まり、子犬に語りかけながら、回りをぼんやりと見回す。 目の前の道を大勢の人々が歩いている。しかしその中にニコルが知っている顔は一つもない。 心細さが急激に襲ってきた。 こんな大きな街で、自分はたった一人なのだ。 そして自分が帰る場所さえわからない。 ぶるっと震え、腕の中の小さな温もりをぎゅっと抱きしめる。 今のニコルにとってそれだけが たった一つ残された確かな存在だった。 「デューク様………」 デュークに会いたかった。 ほんの数時間前までは、デュークの側であの優しい微笑みを見ていたのに。彼の優しい 温もりの中にいたのに………とても幸せだったのに。 寂しくて寂しくて、涙がポロリと頬を転がり落ちる。 あの優しさが嘘だなんて、知らなければよかった。 知らなければ今もデュークの側に いられたのに………。 でも知ってしまった以上は彼の側にはいられない。 彼を困らせたくなかったから。 そう思うのに、彼に会いたくて会いたくて、たまらなかった。 「デューク様……デューク様……」 とうとう、ニコルはその場に座り込んでしまった。 くうん……とトートが心配そうにニコルの頬をぺろぺろ舐める。 しかし、それも今のニコルにはなんの慰めにもならなかった。 「デューク様あ………」 うずくまり、子犬を抱きしめながら、大好きな人の名を呟く。呟きながら、涙が止まらなかった。 と、 「坊や？ どうしたんだい？ 迷子かね」 しょんぼりとうずくまるニコルに、一人の男が声をかけてきた。 その声にニコルが涙に濡れた顔を上げる。 ………誰？ 見知らぬ顔だった。 ニコルの父ほどの年齢だろうか。 立派な格好をした男性が 訝しげな表情を浮かべながらニコルを見下ろしていた。 が、その表情はニコルの顔を見た途端、驚愕と感嘆のものに変わった。 涙に汚れていても、ニコルはとても可愛かったのだ。 「……み、道に迷ったのかな？」 「………」 男の問いに、ニコルはまた俯くとふるふると首を振った。 男の目がかすかに眇められる。 「………迷子ではないのかい？ なら行くところがない……？」 男の目に、妙な光が浮かぶ。 しかし俯いたままのニコルはそれに気づくことはなかった。 ただ黙って、トートをぎゅっと抱きしめるだけだった。 |