Dear my dearest






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「それじゃあ、そろそろ失礼するか」

 散々デュークをからかい笑ったアーウィンは、椅子から立ち上がりエリヤに手を伸ばした。

 その手をエリヤがにっこりと笑い握る。

「どうやら俺達はお邪魔のようだからな。 エリヤ」

「……だからさっさと帰れとさっきから言っているだろう」

 デュークは悪友の顔を睨みつけながら、ぼそりと呟いた。 そして、エリヤに向き直ると

一変してにこりと笑いかけた。

「エリヤ王子、次は是非この馬鹿は抜きでお越しください。 心より歓迎いたします」

「ありがとう、侯爵」

 エリヤはくすくす笑いながら、言葉を返した。

 と、

 突然、ためらいがちに扉をノックする音が聞こえたと思うと、中の返事を待たず扉が開き、

カディスが深刻な顔で入ってきた。

「カディス? どうした」

 常日ごろ礼儀を重んじる執事のらしからぬ行動に、デュークは何があったのかと訝った。

「デューク様…実はニコル様に……」

「ニコル? ニコルがどうかしたのか?!」

 どういえば、お茶の用意をすると言ったきり、戻ってきていない。

 何かあったのかとデュークの表情がにわかに変わった。

 一旦言いかけたカディスは、しかしそれよりもまずアーウィン達に目を向け、深々と頭を下げる。

 さすがに彼らを無視することはできなかったのだ。

「お話の最中にご無礼をいたします」

「いいから、カディス、一体何があった?」

 じれったそうにデュークが話を続けるように促す。

「俺達のことはいいから。 それとも聞かれてはまずいことか? なら……」

 気をきかしたアーウィンが出て行こうかと言うと、カディスは慌てて首を振った。

 仮にも王族の方を追い出すなど、とんでもないことだ。

「はい……いえ、そのようなことでは」

「カディス、いいから話せ。 ニコルがどうしたというんだ」

 デュークが早く話せとせかすように言った。

「はい。 実は先ほどマイラ様がいらっしゃいまして………」

「マイラ?!」

 思いもしなかった名にデュークが大声を上げる。

 聞きたくなかった名前だった。 あの女のために自分がどれほど嫌な気分を味わったことか。

 いや、しかしニコルの件に関しては感謝すべきか。

 しかしとてもそんな気になれないほど、彼女はデュークにとって鬼門だった。

「何故マイラがここにいる」

 事情を知っているアーウィン達も、マイラの名に眉を顰めていた。

「はい……それが私にも何やら……ニコル様に仕事復帰のご報告をと参りましたら、ニコル様と

マイラ様がご一緒にいらっしゃいまして……」

「ニコルとマイラが一緒……っ? カディス、何故私を呼ばないっ」

「ニコル様が大丈夫だと。 しかしどうにもご様子がおかしかったのでお茶の用意を整え、

急いで戻ったのですがそのときにはもうニコル様の姿はなく、マイラ様だけが……」

 嫌な予感に襲われながら、デュークは執事の顔を見た。

 あのマイラがニコルに何もしないはずがない。 いくら自分が仕組んだ結婚の話といっても

それが善意からのものであったのではないことは明らかだ。 

 そしてニコルはマイラの正体を知らず、ここに来た。 おそらくマイラの顔も知らなかっただろう

ことはニコルと一緒にいる時間に聞いた話の中からもわかる。

 マイラの目的は何なのか。

「ニコルがいなくなったのか? 今は?」

 何か嫌なことを言われたのだろうか。 マイラのいる部屋にいられないほどのことを?

何か傷つくようなことを言われたのでなければいいが…………あの女は自分の利益のためなら

どんなことでも平気でする人間だ。

「それが屋敷のどこにも……」

 デュークの形相が変わった。

「………マイラはまだいるのか?」

「はい、居間の方に」

 聞くや否や、デュークは扉に向かっていた。

「カディス、お前はニコルを探してくれ」

「デューク、俺達もいいか?」

 ただならぬことが起こったようだと、アーウィンが出て行こうとするデュークに声をかけた。

 何か手助けが出来ればと思ったのだ。

 一瞬足を止めたデュークは無言で軽く頷くと、足早に部屋を出て行った。

 アーウィンとエリヤも顔を見合わせると、彼の後に続いた。