Dear my dearest




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「バカね」

 一瞬灯った希望の光を、マイラは簡単に打ち砕いた。

「夫の子供ならどうしてここまで私が来るというの? そう言えないからここに来てるんじゃ

ないの。少しはその軽い頭を働かせなさい」

 せせら笑いを浮かべてニコルを見る。

「私がどうして男の子のあなたなんかをデュークの相手に選んだと思うの? 少しも疑問に

思わなかった?」

「それは………」

 確かに話を聞いたときは驚いた。でもこの国では同性同士の婚姻はままあることだ。

「デュークと私の仲は決して表ざたには出来ないものよ。そうでしょう? 私は夫のある身だし、

しかもその夫はデュークの父親。でも元々私はデュークと結婚するはずだったの。彼の父親が

私を気に入って無理に妻にしなければね。私はデュークのことは忘れようとしたわ。でもデューク

が私を諦めてくれなかったの。私も彼の想いを拒むことはできなくて………気がついたら彼の

子を身ごもっていた」

「そんな………」

 ニコルは真っ青になって首を振った。

 足ががくがくと震える。

 信じられないような話に、今にもその場にうずくまってしまいそうだった。

「もちろん、夫に言えるはずはないわ。でも夫の子供だと言うこともできない。だって夫はその頃

ずっと病で体を悪くしていたから、子供が出来たなんて言ったらすぐに私の不義がわかって

しまうもの。だからデュークと相談して、偽りの結婚をすることにしたの」

「い…つわり……?」

 消え入るような小さな声で呟く。

「そう。デュークの結婚相手が男だとしたら、一番問題になるのは何だと思う? 跡継ぎよ」

 ニコルははっとマイラのお腹を見た。

「少しはわかった? クレオール侯爵家に跡継ぎができないとしたら、問題よね。だって国有数の

名門の家なのよ。でも国王も認める婚姻だったら夫も反対はできない。なら、唯一のデュークの

子供になる私のお腹の子を夫は認めざるを得なくなるはず。私達は条件に合う人物を探して、

遠い親戚のあなたを見つけたの。あなたなら周りも不思議に思わないわ。私の親戚筋、

しかも実家は一応名門だし………内情はどうであれね。そしてあなたはここにやってきたという

訳。デュークの、偽りの花嫁としてね」

「偽り………嘘……」

 自分はデュークの本当の相手ではなかった。

 ニコルはもう耐えられなかった。

「う……うぇ……えっ、えっ……」

 その場に座り込み、ぼろぼろと涙を零した。

 悲しくて悲しくて仕方がなかった。 胸が張り裂けそうに痛い。

 どうして……どうしてデューク様………。

 あんなに優しく笑ってくれたのに、優しい言葉をかけてくれたのに、好きだと何度も言って

くれたのに……………それは全部嘘だったのだ。

 胸が苦しいよ………デューク様………。

 次から次へと頬を伝う涙を拭うことすら忘れて、ニコルは涙を流し続けた。