Dear my dearest




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「え? え?  王子様? エリヤ様って……え? 王子様……!?」

 デューク達の会話を聞いていたニコルは、自分の目の前にいる人物が誰なのかわかり、

頭の中が真っ白になった。

 まさか、自分の前にいるこの綺麗な人が王子だとは夢にも思っていなかったのだ。

「………ニコル、やっぱり気づいていなかったのか」

 その様子を見てデュークが苦笑いを浮かべた。

「だって、デューク様! 王子様って……王子様ですよ!」

「何だ、それは」

 思いがけないことに混乱しているニコルは、自分でも何を言っているのかわからない。

「自分の国の王子の名前くらい知っていなくてどうするんだい」

 ポンポンと頭を軽く叩きながらデュークはニコルに言った。

「だって、だって! 王子様って僕、もっと違う方を想像していたから……」

「違う?」

「王子様ってとっても背が高くて、とっても格好よくって、とっても強くて、とっても

とっても…………こんな綺麗な方とは思わなかったから……」

 話す声がだんだんと小さくなる。

 見ると真っ赤な顔でもじもじと俯いている。

「……要するにもっと見た目が男らしいと思っていたわけだな」

 笑いを堪える声でアーウィンが言った。

「ニコル……」

 デュークは笑っていいのか何と言っていいのかわからなかった。

「これでも剣の腕はなかなかなものと自負しているのだけれどね」

 エリヤも笑いを堪え切れない様子だった。

 ニコルの前に立つと、その顔を覗き込むようにして微笑んだ。

「私のような王子ではニコルのお気に召さないかな?」

「そんなことないです!」

 ニコルはぶんぶんと首を大きく振った。

「お、王子様はとっても素敵です! 僕、こんな綺麗な方初めて見ました! デューク様の

お友達の女の方達もとっても綺麗って思ったけど、でも王子様の方がずっとずっととっても

綺麗です!」

「ニ、ニコル!」

 なんてことを言い出すんだと、デュークは慌ててニコルを止めようとしたがすでに遅かった。

「………っは! はははははは!」

 アーウィンがもう我慢できないと大きな声で笑い出した。

「そう、……侯爵のお友達よりも綺麗だなんて、光栄と言っていいのかな?」

 エリヤも笑いに肩を震わせている。

「ニコル……」

「……僕、何かおかしいこと言いました?」

 そんな皆の様子を見て、ニコルがデュークに不安そうに話しかけるが、手で顔を覆った

デュークは黙って首を振るだけだった。






「………ニコル、とにかくお茶を持ってきてくれないか。 このまま立ち話はエリヤ殿に

失礼だ」

「あ、はい!」

「……俺はどうでもいいって?」

 笑いの収まらぬ顔でぽそりとアーウィンが呟いたが、デュークはそれを無視した。

 と、お茶の用意を頼みに行こうとしたニコルが何かを思いついたかのように、またデュークの

元に戻ってきた。

「?」

 どうしたと首を傾げるデュークにニコルが真剣な顔で尋ねる。

「あの、どうしてエリヤ王子様がここにいらっしゃるんですか?」

「……どうしてって……そりゃ、用事があるからで……」

 まさか、結婚許可証の再認可状を持ってきてもらったとは言えるわけがない。

 曖昧に答えるデュークだったが、ニコルが気になるのはそんなことではなかった。

「用事って、じゃあデューク様と王子様って、やっぱりお知り合いなんですか?」

「………は?」

 何を言われているのかわからない。

「どうして王子様なんて偉い方とお知り合いなんですか?」

「どうしてって……」

 侯爵家という名門にあって、王家の者達と知り合いでない方がおかしい。

 しかもデュークは国の中でも国政に携わる重要な役目についている。

 そのことはニコルも知っていると思っていたのだが………。

「ニコル、俺達とデュークは昔からの知り合いなんだ。それもとても親しい、ね」

 見ていたアーウィンが口を挟む。

 それを聞いたニコルが驚いた顔でデュークをまじまじと見た。

「………デューク様って……」

「ん?」

「……もしかして、デューク様って偉い方なんですか?」





「わっははははは!」

 その瞬間、アーウィンが爆笑した。

 エリヤも今度は堪えきれずくっくっと笑い出す。

 その中でデュークはがっくりと肩を落としていた。