Dear my dearest




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「一緒、一緒、今日はデューク様とず〜っと一緒〜♪」

 ニコニコと笑いながら、ニコルは廊下を歩いていた。

 嬉しくて嬉しくて仕方がない。

 今日はずっとデュークと一緒に過ごせるのだ。

 何日ぶりのことだろう。 

 あのニコルが大泣きした夜、デュークはニコルが一番だと言ってくれた。

 でも、それでも心のどこかに不安が残っていた。

 だから今日の時間が特別嬉しい。

「何しようかな。 デューク様、何がしたいのかな。 ひさしぶりに乗馬もしたいし、一緒に本も

読みたいし………そうだっ 新しく覚えたお菓子、デューク様に召し上がっていただこう」

 一緒にしたいことがいっぱいある。

 ニコルの頭の中は今日一日のことでいっぱいだった。

 だから、1階のエントランスホールに差し掛かったとき、玄関扉が開いたことにもすぐには

気づかなかった。





「デューク! おいっ デューク!!」



 突然大きな怒鳴り声がホールいっぱいに響き渡り、ニコルはその大きさにびっくりした。

「な、何……?」

 慌てて扉の方を振り向くと、そこには背の高い男性が立っていた。

「デューク! いるんだろう!! さっさと出て来い!」

 男はニコルに気づいていないのか、階段の上を見据えたまま、また大声を上げた。

 誰だろう……あんな大きな声でデューク様を……何だか怖い………。

 怯えを含んだ目で男をじっと見る。

 と、その視線に気づいたのか、男がやっとニコルの方に目を向けた。

 ニコルを見つけ、その姿に一瞬目を見開く。

「……へえ……これはこれは……」

 男は何やら呟くと、にやりと笑った。

 その笑みに、ニコルはまたびくっとする。

 この人、怖い………。

 デュークを呼ぼうか、どうしようかと迷う。

 どうしよう…デューク様に助けて欲しいけど……でも、この人デューク様のこと呼び捨てに

した………デューク様に悪いことする気なのかな………。

 そう思うと、デュークを呼んではいけないような気もした。

 どうしよう、どうしようと迷っていると、男がつかつかとニコルの方に近寄ってきた。

 そして目の前に立ち止まると長身を屈め、ニコルの顔を覗き込んだ。

 ニコルはもうどうすればいいかわからず、ただ身を固くして立っているだけだった。

 こ、怖いよ〜………。

 男の青い目がじっと自分を見つめている。

 動くことも出来ず、ただその場に立ち尽くしていたニコルは、間近に見た男の顔が存外

整っていることに気づいた。

 あ………綺麗な目………デューク様よりずっとずっと深い青だ……。

 赤みがかった金髪が彫りの深い顔立ちの周りを縁取っている。

 その顔がふっと優しく笑んだ。

 突然男の表情が優しいものに変わったことに、ニコルは目をぱちくりとさせた。

「君がニコルだね。デュークの野郎をおとした………う〜ん、デュークがこんな趣味だった

とはな………」

 おとした……? 野郎……?

 とっさに言葉の意味が掴めず、ニコルの頭の中がぐるぐる回る。

 その時、男の背後からくすくすと笑う別の声が聞こえた。

「アーウィン、そのような大きな声で……かわいそうに、彼がびっくりしているじゃないか」

 男の後ろから現れたもう一人別の青年の姿に、ニコルはまた目を見開いた。

 今度は別の理由で。

 ……うわあ……綺麗な人………。

 背はそれほど高くはないが、すらりと優美な体つきをしている。

 銀色に輝くプラチナブロンドの長い髪が緩やかなカーブを描きながら背を流れ、透き通るような

白い肌の中で灰色の瞳が優しい笑みを湛えている。

 男……男の人…だよね………。

 ぽかんと見上げるニコルに、その人は少し身を屈め優しく微笑んだ。

「突然やってきて申し訳ないね。 私達は怪しいものではない。 侯爵はまだお休みかな?」

 問いかけにニコルはふるふると首を振った。

「先ほどは起きていらっしゃいました」

「そう……」

 ニコルの言葉に青年は笑みを深くする。

「じゃあ、申し訳ないが呼んできてもらえるかな。 アーウィンとエリヤが来たと言えば

わかるだろうから」

 そう言って隣に立つ男を見る。

 アーウィン……エリヤ……??? ………どこかで聞いたような………。

 聞き覚えのある名に首を傾げるが、どこで聞いたのか思い出せない。

「すぐに呼んでまいります」

 とにかく、デュークを呼んでこよう。

 ニコルはそう決めると、二人にペコリと頭を下げ、 階段を駆け上っていった。









「可愛い子だね」

「ああ、あれは将来素晴らしい美人になるぞ………お前には敵わないだろうがな」

「アーウィン……」

 しらっと告げるアーウィンを、エリヤは笑みを含んだ目で睨みつけた。