Dear my dearest
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主人の怒りを想像し、密かに顔を青ざめさせたカディスだった。 が、ニコルの言葉におや、と顔を上げた。 「そんなにいっぱい遊んでいたら、デューク様大変ですね」 「………………………は?」 どうもニコルの様子が自分が思っていたものと違う。 「だって、そんなにお付き合いしていたら、いっぱいお金いるでしょう? この間連れて行って いただいたお食事のお店もとっても高いところみたいだったし、アイスクリームのお店もそんなに 安いものじゃあないでしょう? デューク様、いつもいっぱい美味しいお菓子とか買ってくださるし、 お芝居もとても高いものでしょう? デューク様、大丈夫なのかなあ………」 「…………あの、ニコル様?」 どうやらニコルの思っている”お付き合い ”はカディス達の言っているものとは意味が違うようだ。 ああ、そうか。 カディスは納得した。 ニコルにとってお付き合いとは外で食事をしたり散歩したりお芝居を観たり、とその程度のもの なのだろう。デュークとニコルがするデートがまさしくそうなのだ。 カディスはやれやれと内心胸をなでおろした。 が、一つ疑問が残る。 何故、ニコルは今頃そんなことを言い出したのだろう。 そこではたと思いつく。 もしや………デュークが遊んでいた頃の誰かとどこかで会ったのだろうか。 そしてその誰かがニコルにデュークとの仲をほのめかした? が、すぐにその考えを否定する。 そんなはずはない。 デュークは遊んではいたが、それなりに相手は選んでいた。 ニコルに………デュークの妻となった人間に直接会いにくるなど、己のプライドに反する 行為を彼女達がするはずがない。 では一体……? これはニコルに直接尋ねた方が早い。 そうカディスは考えた。 「あの、ニコル様。もしやどちらかで、どなたかとお会いになったので?」 「うん。とっても綺麗な人だったの。黒い髪でね、眼は薄い青色だったの。ジェンナさんとは ちょっと感じが違うけどでも綺麗な人だったよ」 黒い髪……青い瞳……あの伯爵夫人だろうか、いや、それともあちらのご令嬢のことだろうか。 いや、それとも………。 主人の遊び相手を把握しつくした有能な執事の頭の中をさまざまな貴婦人の姿が駆け抜ける。 が、あまりにも心あたりがありすぎた。 「そ、それでその方は何という……?」 一体誰だ、と身を乗り出すカディスに、しかしニコルは首を横に振った。 「知らない。名前は言わなかったの。でもデューク様に会いに一度ここに来るからって」 なんだろう、何か御用なのかな。でもそれなら僕と一緒に来ればよかったのにね。 おそらくニコルはその言葉の裏の意味を知らずに言っているのだろう。 無邪気に首を傾げていた。 カディスは頭がくらりとするのを覚えた。 だからお遊びはほどほどになさいますようにと、あれほど申していたのに……! ここにいない主人を心の中で思い切り罵倒する。 おそらくデュークがぴたりと遊びをやめたことに不満を持った誰かがニコルに挑戦してきたのだ。 デューク様、せめて遊ぶお相手は選んでいただきたかったです………。 その女性がこの館にまで乗り込んできたら……そう想像するだけで、冷や汗が出る。 せめてその時にデュークがいれば……いや、デュークがいれば余計に修羅場になるかも しれない。 かといって、ニコルだけでは………。 どうすればいいかと今から頭を抱える。 その女性の言葉がその場限りの捨て台詞であることを祈るしかなかった。 |