Dear my dearest



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「えっと、このお薬が朝晩飲むもので、これが痛い時に、と。それから……これが毎晩腰に

塗るお薬だよね」

 医師の家からの帰り道、渡された薬をニコルは真剣な顔で確かめていた。

 街中の通りをとことこと歩きながらバッグの中を覗き込んで難しい顔をしている可愛い少年の

姿は、道行く人々の目を引いていた。

 が、ニコルはそんなことに気づく様子もない。

「早くカディスさん良くなるように、ちゃんと看病しなきゃ」

 大切な執事の看病は自分の使命なのだと意気込むその様子をもし当の本人が見ていたら、

とんでもない、と首を振っていたことだろう。

「そうだ、やっぱり食事も別に用意した方がいいのかな。お医者様に聞くの、忘れちゃった。

でも病人には病人食だよね。う〜ん………何がいいんだろう………や、柔らかいもの?

甘いものがいいかな。それとも………」

 腰を痛めただけだ。何も食事は関係ないと、またしても執事の抗議が入りそうなことを

呟きながら、ニコルは屋敷への帰り道を歩いていく。

 街中に出るときは必ず馬車を使うようにと、デュークに言われていたことも忘れていた。

 医師の馬車に便乗させてもらったためなのだが………もともとニコルは歩くことが苦痛

ではない。好きな方だ。

 だから医師の元から屋敷に帰ろうとしたときに、馬車で送ろうという言葉を笑って辞退

したのだった。

 しかし、このときはそれが災いした。







「………ちょっと、お待ちなさい。あなた………もしかして、ニコル?」

「はい?」

  突然、誰かに自分の名を呼ばれたニコルは、え、とその声がした方向を振り向いた。

 そこには一人の女性が立っていた。

 美しい女性だった。

 年はジェンナと同じ位だろうか。

 …うわあ、綺麗な人………ジェンナさんとは違う雰囲気だけど、でもとっても綺麗………。

 ニコルは見知らぬその女性の美しさに目を見張った。

 が、その女性に自分の名を呼ばれたことを思い出し、はっと我に返る。

「あの……どこかでお会いしましたでしょうか? 僕、あなたのこと、知らないような……」

「そんなこと、どうでもいいわ」

 ニコルの問いかけに、しかし女性は冷たい返答をよこした。

 そしてニコルの姿を頭の先からつま先までじろじろと見る。

 ………なんだかイヤだな……

 その目の冷たさにニコルは不安な気持ちになってきた。

 そして早くこの場から立ち去ろうと決める。

「あの、僕急いでるので、すみませんけど失礼します」

 そう言ってぺこりと頭を下げると歩き出そうとした。 が、それは適わなかった。

「お待ちなさい」

 先ほどよりも冷たい声がニコルの足を止める。

 女性はつかつかとニコルのそばに歩み寄ると、もう一度ニコルの全身に目を走らせ、

あからさまに嘆息して見せた。

「あなた、まだデュークのところから出て行っていないの? 何をしているのかしら、

あの人ったら………」

「あの……?」

 デュークの名にニコルがぴくっと反応する。

 この人、デューク様のことを知ってる? もしかして、デューク様のお友達なんだろうか……。

 そう問いかけようとしたが、言葉を出す前に女性がまた独り言めいた言葉を呟く。

「まったく………酔狂にもほどがあるわ。こんなはずじゃあなかったのに……どうしてまだ

この子がデュークのところにいるのよ。さっさと追い出すかと思ったのに……それともあの噂

は本当なのかしら? まさか、ね………」

 そう呟きながら、なおもじろじろとニコルを見る。

「あの………」

 その視線に耐え切れず、ニコルが声を出す。

「あの、デューク様のお知り合いですか?」

「え?」

 ニコルの声に女性はやっと反応を返して見せた。

「ええ……そうね。私はデュークの知り合いよ…………とっても深い、ね」

 意味深な笑いを浮かべる女性にニコルはまた嫌な感じを覚える。

「そう……近いうちにそちらに伺わせていただくわ。デュークにも話があるし……とっても

大切な、ね。あなたともそのときゆっくりお話しましょう」

 それだけ告げると、女性はニコルから離れていった。

 ニコルが引き留める間もない。

 ………誰?

 女性の後ろ姿を見送りながら、ニコルは胸のなかに言いようのない不安がこみ上げて

くるのを感じていた。