Dear my dearest 



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 ニコルは手の中で形状を変えていくものから目が離せなかった。

 少し手を動かすと、それはますます固く、大きくなる。

「デューク様、まだまだ大きくなるの?」

 想像すらしたこともないほどに大きくなっていくそれに驚きを隠せず、ニコルは素直な疑問を口にした。

「ニコル……っ も、いいから……っ!」

 ニコルにとってはただの好奇心でも、デュークにしてみればとんでもない状態だった。

 自分の分身を手に取られ、玩ばれているのだ。

 そんな無邪気な仕草が、しかしデュークの意に反して下半身を高ぶらせていく。

 待てと思うのに、勝手に自分のものは欲望を募らせていく。

 勘弁してくれ……!

 こんなことは初めてだった。

 数え切れないほどの女性達と情事を重ねてきた彼にとって、なんの経験もないニコルを抱くこと

など造作もないことのはずだった。

 なのに、現実の自分はその無邪気さにかえって翻弄されている。

「えへへ、デューク様のここ、なんだかとっても可愛い……ほら、こんなに大きくなっちゃった」

 ニコルが嬉しそうに自分の手の中で育てたものをヨシヨシと撫でる。

「……!」

 デュークはまた新たなショックを受けた。

 カワイイ……可愛い? 何が? 自分が? 自分のものが、か?

 耳慣れないその言葉に頭がクラクラするのを覚える。

「あれ? デューク様、ちょっと小さくなっちゃったよ?」

 デュークが大きなショックを受けて呆然としていることに気づかないニコルは、手の中のものが

小さくなったことに首を傾げた。

「もう一回、大きくしてあげるね」

 よいしょ、と手を動かし始める。

「〜〜〜っ!!!」

 デュークはもう絶叫寸前だった。

 やめてくれ、とそう叫びたかった。

 楽しそうに己のものを弄り続ける少年が恨めしくなる。

 まるで子供が楽しいおもちゃを見つけた時のようなその様子には、今、自分達がしていることが

情事なのだという雰囲気は少しもなかった。

 おそらく、ニコルにはその自覚すらないのだろう。

「ニ、ニコル……」

 それでも下肢から確実に伝わってくる快感に耐えながら、デュークは何とかその手を止めようとした。

 手を伸ばして少年の手を掴む。

「デューク様?」

 せっせと手を動かし続けていたニコルは、突然行為を中断させられてどうしたのかと不思議そうに

デュークの顔を見上げた。

「ニコル、あのね……」

 額に汗し、引きつり笑いを浮かべながら、それでもデュークが何とか穏やかな表面を繕いながら

口を開いた。

 違うのだ、自分がして欲しいのは……

 望みを口にしようとする。

 と、

 ………コン…、コン…、コン………

 突然、控えめに扉をノックする音が聞こえた。

 なんだ、こんな取り込んでいる時に……!

 デュークは舌打ちしそうになりながら、しかしそのノックを無視する。

 何の用か知らないが放っておけばカディスが何とかするだろう。

 よほどの急用でもない限り、今のデュークには応えるつもりも余裕もはなかった。

 無視したまま、続きに戻ろうとする。

 しかしそうはいかなかった。

「デューク様、誰か来てます」

「放っておけばいい。カディスがやっててくれるよ。それよりもね、ニコル。私は……」

「でも……」

 ノックにニコルの意識がデュークの下半身から逸れたことを幸いに、今度は自分が、と勢い込む

デュークだった。

 が、

 コン、コン、コン……

 またしてもノックの音が二人を邪魔する。

「やっぱり気になります」

 ニコルががばっと身を起こしてベッドの上で姿勢を正す。

「ニ、ニコル……っ」

「はい! 何ですか?」

 デュークが止めようとするが、ニコルはかまわず扉の向こうにいる誰かに元気よく返事した。

「失礼いたします。 デューク様はそちらにおいででしょうか?」

 扉の向こうからニコルも良く知るメイドの何故かひどく慌てた声が聞こえた。

「アニタさん? どうしたの?」

 ニコルが言葉を返す。

「ニコルさま、大変です。カディスさまが……」

「え?」

「カディスさまが突然お倒れに……!」

「ええ!!」

 メイドの言葉にニコルは悲鳴のような声をあげると、ベッドから飛び降りて扉へと走った。

 扉を開けようとして、自分が裸であることに気づき、またベッドに引き返してくる。

「デューク様! 僕の服!」

「あ、ああ……」

「デューク様も早く!」

 呆然とするデュークの体の下から自分の寝着を引っ張り出すと慌てて身につけ、また扉へと

走った。

「アニタさん! カディスさんはどこ?!」

 扉を開けてそう聞くと、あっという間に部屋から走り去っていった。



 何が起こったのか………

 後には一人残されたデュークがベッドの上で呆然としていた。