Dear my dearest
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だめだ……… 「デューク様?」 じっと動かないデュークにニコルが不安な顔を見せる。 そんな少年に安心させるように微笑みかけ、 頬に手を滑らす。 だめだ………今はニコルを抱くことは……… ニコルの上からそっと体を離す。 「デューク様……?」 「……………今夜はやめておこう……」 どうしたのかと目を見開くニコルにそう告げる。 「っ!…………僕、 何か悪いことしちゃったの?」 「そうじゃない。 ………私が悪いんだ……」 見る見る悲しそうな顔になるニコルをデュークは慌てて抱き寄せた。 「私のせいなんだ……君は少しも悪くない………今夜はちょっと調子が悪くてね……」 「お体が悪いの?」 悲しそうな表情が一転して心配そうなものに変わる。 おろおろとしながら医者を呼ぼうかと身を起こす。 「大丈夫だよ。 ……だから今夜はこのまま休もう」 もう一度少年の体を抱き寄せてそう囁いた。 「はい………」 それでも心配そうにデュークを見ながらニコルは体を寄せた。 「デューク様………本当の本当に大丈夫?」 見上げる瞳が不安に揺れていた。 「大丈夫だよ。 少し疲れたのかな、 城に行って」 「お仕事、 大変なんですか? 無理なさらないでくださいね」 そう言って胸に擦り寄る少年の体からは甘い匂いがした。 その香りにデュークは眩暈を起こしそうになる。 一端萎えたはずの欲望が性懲りもなく甦ってくる。 しかし手を出すわけにはいかなかった。 デュークのなけなしの良心がそれを咎めていた。 「大丈夫だよ……もうお休み」 「はい………デューク様……」 素直に目を閉じた少年はしばらくすると健やかな寝息を立て始めた。 小さく開いた口から漏れる吐息がデュークの胸をくすぐる。 体の内を欲望が貫く。 それでもデュークはじっとしていた。 完全に少年が寝入ったのを確かめると、 ようやくそっと身を起こした。 「………まるで拷問だな……」 身から出たさびとは言え、 あまりに酷な状況だった。 「早く認可をもらわないとこちらの身がもたない」 明日またアーウィンの奴を急かしに行かなければ・・・・・・・・・ そう予定をする。 ベッドから抜け出そうとした時に、 ニコルがコロリと寝返りをうった。 「ん……デューク様……」 小さくつぶやかれた声にびくっとする。 しかし寝言だったらしく、 またかすかな寝息が聞こえてきた。 ほっと吐息をもらしたデュークはベッドから下りて隣の部屋に向かった。 居間では子犬のトートがソファの上でふて寝していた。 入ってきたデュークに気付くとなんだと言うように小さく唸ってみせる。 「しっ………悪いな……今夜はお前と一緒だ」 別のソファに座り、 目の前のテーブルに置かれた酒瓶に手を伸ばす。 …………また今夜も酒の世話になりそうだな。 自嘲しながらグラスに酒をつぐ。 向かいのソファではトートがじっとその様子を見ていた。 「お前も付き合うか?………といってもお前は酒は飲めないものな」 興味を失ったのか、 子犬はまた丸まって眠る体勢に入った。 「………つれないな」 苦笑しながらグラスの中身を煽る。 また、 今夜も長くなりそうだった。
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