Dear my dearest

 

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    部屋に入る二人の足元にワンワンッとトートが嬉しそうにまとわりついた。

  そのまま子犬を従えたままデュークは奥の寝室のベッドまで行くと、 腕に抱えていたニコルを

そっとシーツの上に下ろした。

 「すまないが、 お前は今夜はこっちだ」

  そして自分もベッドに上がろうとピョンピョン飛び跳ねる子犬を腕にひょいと抱えると、 隣の居間まで

戻っていった。

  不服そうなトートのうなり声が聞こえてくる。

 「そんなにうなってもダメだ。 今夜はここで寝るんだ」

  そう言い聞かせるデュークの声がした。

  ニコルはその声を聞きながら、 だんだんと恥ずかしくなっていく自分を感じていた。

  変なの…………昨日もしちゃったのに……でもとっても恥ずかしいよお………

  そのままじっと横たわっていることに我慢できなくて、 もぞもぞとシーツの中に潜りこんだ。

  ちょっとほっとする。

 「ニコル?」

  そこに子犬を追い払ったデュークが戻ってきた。

  まだ隣からは抗議の鳴き声が聞こえている。

  しかしデュークの声を聞いたニコルは途端にドキンッと胸が高鳴って、 トートのことなどすっかり

頭から離れてしまった。 鳴き声すら気にならない。

 「ニコル? 隠れん坊かい?」

  くすくすと笑う声が聞こえる。

  かすかにギシリという音と振動で、 デュークが枕元に座ったのが感じられた。

  シーツの上から頭を撫でられる感触がする。

 「ニ〜コル、 ほら、 顔を見せてごらん」

  その声におずおずとシーツから顔を覗かせる。

  途端にまた心臓が飛び跳ねた。

  デュークはすでに上半身裸になっていたのだ。

 「あ………」

  昨夜はデュークは服を脱いでいなかった…………

  初めて見るデュークの裸に、 ニコルの顔が真っ赤になる。

  なんだか恥ずかしくて目を合わせていられず、 またシーツに潜りこもうとする。

 「だめだよ」

  しかしデュークがやんわりとそれを留めた。

  そしてシーツを端を掴むとペロリとめくってしまった。

 「デュ、 デューク様………」

  隣にするりと入りこまれてニコルは思わず声を上げた。

 「ん? どうした?」

 「僕………」

  昨夜の痴態を思い出し、 今更ながらに恥ずかしさに居たたまれなくなる。

  またあれと同じことが行なわれるのだ…………自分の恥ずかしいところを見られてしまうのだ。

 「僕………恥ずかしい……」

 「ニコル……」

  小さくつぶやかれた言葉にデュークはそっと笑った。

 「恥ずかしいだけじゃないだろう?」

  少年の頬に手をあてて囁く。

 「ニコルは昨日私に触られて嫌だった? 気持ち良くなかったかい?」

  その言葉にぶんぶんと首を振る。

 「気持ち、 良かったです………とっても……信じられないくらいに」

 「ニコルが気持ちいいのなら私も嬉しいんだ………また気持ち良くなろう?」

  デュークはゆっくりと少年の体に手を触れていった。

  今更急ぐ気はなかった。

  今夜こそニコルの全てを自分のものにすると決めているのだ。

  そう決心した途端に、 今までの狂おしいほどの欲求が穏やかになった気がした。

  いや、 今も激しさに違いはないのだがそれほど気にならなくなったのだ。

  もうすぐ願いが叶うとわかったからか。

 「ニコル………」

  昨夜と同じように少年の顔にキスを降らす。

 「デューク様………」

  すぐにニコルの両腕がデュークの首に回された。

  ぎゅっと引き寄せられる感覚にふと笑みが漏れる。

  恥ずかしがってはいても、 少年はすでに昨夜の快楽を覚えていた。

  ほのかに上がった体温がそれを教えている。

  ブラウスのボタンを下から順に外し、 ゆっくりと裾を捲り上げていく。

  じかに肌を撫でられて、 ニコルの体がぶるりと震えた。

  首にしがみつく力が強くなる。

 「ニコル……私が好きかい?」

  デュークが耳元で囁いた。

 「好きだと……言っておくれ」

 「ん……好、き……大好き……」

  肌を這う手に意識を奪われながらも従順に答える。

 「誰よりも?」

  その答えに満足そうに笑いながら、 デュークはなおも訊ねた。

  いくら聞いても聞き足りない気がした。 もっともっと少年の口から自分への思いを引き出したい。

  「好き………一番好き……ん……っ あ……世…界でい、 ちばん……ああ……」

 「……いい子だ…」

 「大好き……一番……大切な……僕の旦那様……だもの……っ」

 「!」

  その言葉にデュークの手がぴたりと止まった。

  旦那様………

 ” 許可が取り消されたぞ ”

  昼間のアーウィンの言葉が脳裏に甦る。

  そうだ………今自分達は夫婦では………

 「………デュ―ク様?」

  突然動かなくなったデュークをニコルが不審そうに見上げる。

  その、 少しも邪気のない表情に、 デュークの心がちくりと痛んだ。

  高まっていた欲望が急激にしぼんでいく。

  今の自分はニコルを抱くことは………

  今まで何人もの既婚の貴婦人を抱いてきたが、 こんなに罪悪感を感じたことはなかった。

  しかしニコルは別だった。

  結婚が取り消され夫婦ではなくなった今、 ニコルを抱いてしまうことは、 少年の清らかさを……

その無垢な心を穢すことのように思われた。