Dear my dearest

 

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   「おはようございます、 デューク様」

  カディスは食堂に現われた主人の顔を見て、 おやと眉をあげた。

 「ああ…………」

  億劫そうにちらりと執事の顔を流し見、 デュークはどさりと椅子に腰を下ろした。

  途端に頭の中に鉄鎚を振り下ろされたような痛みが走る。

 「うっ………」

  たまらずテーブルに突っ伏すデュークにカディスが呆れた目を向けた。

 「お酒を過ごされましたね。 昨夜は早くお休みになられたのではなかったのですか」

 「うるさい………」

  そう一言言うのも頭に響く。

 「…………コーヒーをくれ。 熱いやつを」

  デュークの言葉にカディスはやれやれと首を振りながら言われたものを用意しに下がった。

 「くそ………」

  頭が痛い。

  完全な二日酔いだった。

  それも無理ないだろう。 昨夜はワインを一本空けるだけでは足りず、 それよりも強い酒を

煽ることで体の中にくすぶる熱を追いやろうとしたのだ。

  …………それが功を奏したとはとても言いがたいが……

 飲んでも飲んでもニコルの姿が頭から離れなかった。

  無垢な裸体が振り払っても振り払っても頭から離れない。 それだけではない。

  手に触れた柔らかな肌の感触、 体温、 ニコルの可愛い声、 そして初めて絶頂に達した

時のあの恍惚とした表情………真新しい記憶の全てがデュークの熱を煽った。

  早く休んだ? ああ、そうとも。 早く休むつもりだった。 ニコルが突然やってこなければ………

 …………いや、 たとえ彼が来なくてもろくに眠ることは出来なかっただろう。

  その前からニコルが抱きたくて抱きたくてベッドの中で悶々としていたのだから。

  はあっとため息をつく。

 「まいった…………」

  まともにニコルの顔を見る勇気がない。

  今、 あの子を見て理性を保っていられる自信がなかった。

  ましてやニコルのあの可愛い嬌態を見たばかりだ。

  思い出すだけで下半身が熱くなるのがわかる。

  このままでは、 カディスがいようとも誰がいようとも構わず彼を襲ってしまいそうだった。

 「デューク様、 どうぞ」

  カチャリと小さな音と共にカップが目の前に置かれる。

  コーヒーの芳しい香りが鼻をくすぐる。

 「本日のご予定はいかがでしょうか? またニコル様とどちらかへ……?」

 「いや………」

  とっさに否定してしまう。

  カディスが片眉を上げるのが目の端に見えた。

 「いや…………今日は城に出る。 そろそろ仕事もしなければな」

  そうだ。 ここしばらく宮廷に顔も出していない。 昨夜も女性達が言っていたではないか。

  クレオール公爵ともあろうものが宮廷から遠ざかってどうするのだ。

  いつも自分は宮廷の中心にいなければならないというのに。 国務でも社交場でも。

  それに何か大事なことをわすれているような気がする。

  昨夜も頭を掠めた何か。 早く宮廷に行ってしなければならないことがあるような…………

  考えようとするが、 ひどい頭痛がそれを遮る。

 「まあいい。 行けば思い出すだろう」 

  コーヒーを飲み干すと、 デュークは仕度をしようと部屋に戻りかけた。

  が、 部屋にまだニコルがいることを思い出す。

  しまった………今はまだ………

  眠っているだろうニコルを見てしまえば、 今度こそどうなるか……自分でも自信がない。

  仕方なく側に控えるカディスを見る。

  返ってくるだろう反応が嫌だったがそうも言ってられない。

 「あ―………すまないが部屋に行って私の外出着などを取ってきてくれないか?」

 「? ご自分で行かれた方が早いのでは?」

 「………………ニコルがまだ寝ている」

 「!」

  デュークの言葉に執事の表情が変わった。

  まさかという目で主人を見る。

 「デューク様…………まさかニコル様と………・」

 「違うっ 未遂だっ 最後まではやっていないっ」

 「未遂………最後………」

  しまったと思ったときにはもう遅かった。

  口を滑らせた自分に舌打ちする。

 「デューク様……………もしや無理矢理ではないでしょうね。 無理矢理ニコル様をご自分の

お部屋に………」

 「! 違うっ!」

  思わず叫んで、 キ―ンッと響く痛みに頭を抱える。

 「…………………どうやら嘘はおっしゃっていないようですね。 それは慣れない忍耐のための

二日酔いですか」

 「………うるさい、 さっさと取ってきてくれ」

  憮然とするデュークに、 状況を察したカディスはニヤニヤと笑いながら、 それでも主人の

言うとおり部屋へと向かった。

 







  一刻の後、 デュークは二日酔いに痛む頭を抱えながら城へと出かけていった。

  ニコルはそんなデュークのことも知らず、 まだ幸せな眠りの国で遊んでいた。