Dear my dearest

 

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   「変なの、 変なの………絶対変だよ」

  ニコルはベッドの上でじゃれるトートの相手をしながら一人つぶやいていた。

  その声にトートがなんだ?と顔を上げる。

 「デューク様ね、 お芝居から帰ってからずっとおかしいんだよ。 馬車の中でもずっと何か考えてらっしゃたし、

すぐにお部屋に入ってしまわれたし………つまんない」

  コロンと横になってポフと枕に頭をつける。

 「………劇場であんなに素敵なキスしてくださったのに……」

  思い出すように自分の唇に手をやる。

  自分が一番だと言ってくれたのがとっても嬉しかった。 そしてその後にくれたキスは今まで一番甘くうっとりする

ほど素敵だった。 …………カーテンの陰とはいえ、 人目が気になって少し恥ずかしかったが……でもそんなこと

もすぐ忘れてしまうほどに何度も何度も甘いキスを受けた。

 「どうなさったんだろう、 聞いても答えてくださらないし…………ねえ、 どうしよう……」

  訊ねるニコルにトートが遊んでくれるの?とぺろぺろ顔を舐め出した。

 「あははは……くすぐったいよ、 トート。 もう、眠くないの?………そうだ!」

  いきなりニコルががばっと起き上がったため、 乗っていた子犬がコロンと転がってしまう。

 「あっ ごめんごめんっ」

  ウ〜ッと怒る子犬を腕に抱きかかえると、 ニコルはベッドから飛び降りた。

  そのまま扉に向かいかけて、 少し考える。

  そしてベッドに引き返すと、 デュークにもらった大きな熊のぬいぐるみもその腕に抱え込んだ。

  どこに行くんだ?という顔でトートが自分の小さなご主人様を見上げる。

 「えへへ……さあ、 行こう」

  何やら満足気な顔をしてニコルは意気揚揚と自分の部屋を出ていった。











  デュークはベッドに横になりながら、 しかし少しも寝つけずにいた。

  目を閉じるとニコルの可愛い顔が浮かんでくる。

  しばらくベッドの中で悶々としていた彼だったが、 はあっとため息をつくとベッドに起き上がった。

 「……まいったな」

  こんなに誰かを欲しいと思ったことはなかった。

  自分の全身がニコルを欲している。

  体の奥底からこみ上げてくる苦しいほどの欲望に眩暈すら覚える。

  今までの女性達との恋愛など子供だましのようなものに思えた。  いや、 自分は本当は恋すらしていな

かったのだと実感する。

  戯れに遊んでいただけなのだ。 すぐ手にはいる、 簡単な恋の遊びを。

  あんな子供にどうしてこの自分が、 と思う。

  しかしそれでも彼が可愛くて愛しくて仕方がなかった。

  あまりに愛しすぎて安易に手を出すことさえ躊躇ってしまう。

  もし怖がらせたら、 泣かせてしまったらと考えるとダメなのだ。

  ニコルが欲しかった。

  あの小さな柔らかい体を思いきり抱きしめて、 自分の欲望をうずめてしまいたい衝動に駆られる。

  体の中を欲望が渦巻いている。

  が、 理性がかろうじてそれを抑えていた。

  「もう少しもつと思ったんだがな………」

  劇場でニコルに言った言葉は嘘ではなかった。 本当に待つつもりだったのだ。

  ゆっくりと、 少年がもう少し大人になるまで。

  こんなに自分の理性が脆いとは思わなかった。

 「まいったな………」

  何度も心の中でつぶやいた言葉が口を突いて出る。

  いつまで耐えられるものなのか。

  明日からまたニコルの側で。

 「まいった………」

  でも、 それでもニコルの顔を見たい。 少年の側で彼の全てを見ていたいのだ。

  デュークは今更ながらの純情さに我ながら苦笑するしかなかった。

  と、

  コンコン……

  躊躇いがちに扉をノックする音が聞こえた。

 「? 入れ」

  カディスかと思いながら声をかける。

  劇場から帰ってからろくに言葉も交わさずに部屋に入ってしまった。

  何か用事でもあったのだろうかと思いをめぐらす。

  しかし入ってきたのは執事ではなかった。

 「………デューク様……」

  カチャリと開いた扉から顔を覗かせたのは、 たった今まで自分が考えていた少年だった。

 「! ニコル……っ」

  驚きのあまり言葉に詰まる。

 「ど、 どうした? 何か……」

  それでも何とか笑顔で少年を迎える。

 「あの……あのね……」

  部屋に入ってきたニコルは、 しかし扉の所でもじもじと恥ずかしそうにしていた。

 「?」

  その様子を不審そうに見る。

  どうしたのかと思うデュークに、 やっと顔を上げたニコルが爆弾発言をした。





 「あのね………僕、 今夜デューク様と一緒に寝たい」