Dear my dearest

 

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    どうしたんだろう……

  ニコルは帰りの馬車の中でずっとデュークの様子に内心首を傾げていた。

  急にデュークの口数が減ったように思える。

  何か自分が気に障ることでもしたのかと一瞬不安になったが、 話しかければいつもと同じ優しい声で

答えてくれるし、 自分を見る目も優しい。

  何かに怒っているわけではないようだ。

  ただ時々何か物思いにふけってはそっとため息をついている。

 「デューク様?」

  何度目かのため息を聞いたニコルがたまらず呼びかける。

 「ん? 何だい? ニコル」

  返ってくる声は変わらず優しい。

 「どうした? 何か気になることでもあるのか? そんな真剣な顔をして」

  気になることがあるのはデュークの方ではないのか。

  そう問いたくなる。

 「あの……あのね、 デューク様」

  どう訊ねればいいのか、 言葉を探しながら話し出すニコルに、 デュークは何だ?とにこにこと笑顔を向ける。

 「あの……デューク様、 何かお困りなのかな……って……」

 「え?」

 「だって、 さっきからずっとため息ばかりつかれて………僕、 何かお役に立てますか?」

 「……………」

  ニコルの言葉に思わず言葉に詰まる。

  自分がそんなにため息をついていたとは気付かなかった。

  それもニコルの前でなど……………

  不注意な自分に舌打ちしそうになる。

  が、 その理由をニコルに言えるわけがない。 ニコルが抱きたくて仕方がないのだなどと…………

  役に立てるか? と無邪気に尋ねてくる少年に眩暈すら感じる。

  役に立つ…………役に立つどころか彼さえ許してくれれば…………

  いかん、 理性が…………

  ふらふらと少年に手を伸ばしそうになる自分をデュークは必死に抑えた。

  いくらニコルが自分を好いてくれているとわかっていても、 彼はまだ子供なのだ。

  自分が抱く欲望の意味すら知っているかどうかわからない。

  そんな彼をいきなり抱こうとしても、 びっくりして逃げられるか、 最悪自分を怖がってしまうかも知れない。

 「デューク様?」

  心配そうに自分を見るニコルが可愛くて愛しくて仕方がない。

 「…………なんでもない。 大丈夫だよ」

 「そう……ですか?」

  だからデュークはそう笑って答えた。

  しかし、 その言葉にニコルは何故かかすかに顔を曇らせるのだった。











 「お帰りなさいませ」

  邸に戻った二人をカディスがにこやかに出迎えた。

 「お芝居は楽しゅうこざいましたか? ニコル様」

 「はいっ とっても!」

  カディスの言葉にニコルは大きく首を振った。

  本当に素晴らしく楽しかったのだ。 あんな素敵な芝居を見ることができるなんて夢にも思わなかった。

  しかし………

 「ニコル様?」

  黙りこくってしまったニコルにカディスがどうしたのかと問いかける。

 「カディス、 今夜は疲れたのでもう休むことにする。 …………ニコル、 君も疲れただろう。 早く体を休めなさい」

 「あ…………はい……デューク様」

  頷くニコルにデュークはにこりと頷くと、 そのまま階段を上っていく。

 「あ……っ デューク様!」

  ニコルは何かを思い出したようにそんな彼に駆け寄った。

 「?」

 「デューク様! いつものお休みのご挨拶……」

 「ああ……」

  ニコルの差し出した手を、 何故かデュークは気まずそうに見つめる。

 「デューク様?」

 「いや……お休みニコル……よい夢を」

 「おやすみなさい、 デューク様」

  屈みこむデュークの首に両手を回してちゅっと頬にキスをする。

  キスを受けたデュークはぱっと体を離してしまう。

 「デューク様?」

 「あ……いや…」

  怪訝な表情を浮かべたニコルにデュークはぎこちなく微笑むと、 もう一度体を寄せてニコルの頬にそそくさと

キスを送った。

 「おやすみ」

  そしてそのまま階段を上っていってしまった。

 「デューク様………」

  いつもならもっと何度もキスしてくれるのに………

  あまりに簡単に終わったキスに、 ニコルは首を傾げるほかなかった。

  はて………

  そんな二人を見ていたカディスも、 主人の様子が少しおかしいことに気付き、 密かに首を傾げた。