Dear my dearest

 

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    困った………

  デュークは目の前で嬉しそうにアイスクリームを食べているニコルを眺めながら心の中でつぶやいた。

  困った……

  そう密かにため息をつく。

 「デューク様? アイス溶けちゃいますよ?」

 「あ、ああ、そうだな……ニコル、 これも食べるか?」

 「いいんですか?!」

  ぱあっと目を輝かせるニコルににっこりと笑うと、 自分の前にある器を差し出す。

  ニコルはにこにことまた嬉しそうに冷たいお菓子を口に運び出した。

  可愛いな……

  あまりの可愛さにその様子をじっと見つめていると、 勘違いしたのかニコルが手を止めて申し訳

なさそうな顔をした。

 「………やっぱりデューク様もアイス食べたかったんですか? 僕、取っちゃったから……」

 「い、 いや。 いいんだ。 それはニコルが全部食べていい。 私はそれほど……」

 「でも……」

  食べなさいと促がすデュークの顔をじっと見つめながら何やら考えていたニコルは、 おもむろに

自分の匙にアイスを掬うと、 デュークの口元に差し出した。

 「はい」

 「っ!……」

 「デューク様と半分こします。 はい」

  そう言って差し出された匙をデュークは呆然と見た。

  これは………このまま食べろということだろうか。

  さすがに人前で食べさせてもらうという経験がないデュークは、 目の前の匙にたじろいでしまう。

 「?」

  見るとニコルはにこにこと無邪気にこちらを見ている。

  店の中の全ての人間が自分を見ているような気分になる。

  ちょ、 ちょっと恥ずかしいかも…………

  いつもスマートに女性をエスコートしている自分が少年の手で物を食べさせてもらう光景など、 考える

だけでとんでもないことだと思う。

  そう思うのだが……しかし……

 「デューク様?」

  自分が食べるものと信じて疑わない様子のニコルを見ると、 無下に断ることができない。

  仕方ない、と腹をくくると、 デュークは口を開いて急いで匙の中のものを口に含んだ。

  口の中一杯に広がる甘味。

  それはいつもよりもずっと甘く、 美味しく感じた。

 「美味しい?」

 「ああ………とても美味しい」

  嬉しそうに問うニコルに、 デュークは世辞ではなく心からそう言った。

  本当にいつもよりずっと美味しかったのだ。

 「えへへ……デューク様と半分こ」

  そう言いながらニコルはデュークが口に含んだばかりの匙を今度は自分の口に運んだ。

  開いた口から覗くピンク色の舌。

  それが匙の上のアイスをぺろりと舐める。

 「うっ☆!」

  その光景にデュークは思わず口元を手で覆った。

  まずい………っ

  アイスのことで少しの間頭から離れていたものがまた甦ってくる。

  困った、 困った……っ

  デュークはまた頭の中で悩み出した。

  ニコルが可愛いすぎるのだ。

  劇場での一幕でデュークのニコルへの想いはもう一気に高まった。

  それまでも可愛くて仕方がなかったのにあんな可愛い嫉妬まで見せられて、 それまではニコルが

もう少し大人になるまで何とか持つだろうと思っていた理性が崩壊寸前になってしまったのだ。

  そうなると、 それまではそれほど気にしていなかった何気ない仕種までが扇情的に目に映ってしまう。

  今もニコルの可愛い舌がちろりと動くのを見て、 思わずそれが自分のものを舐めたらどんなだろうと

妄想してしまった。

  先程などニコルが匙を握るところを見てその手が自分のものに絡みつくところを想像してしまい、

下半身が反応しそうになった。

  ふわふわの髪の毛から覗く白いうなじが自分を誘っているように思える。

  アイスに濡れた赤い唇がキスしてくれと誘っているように思える。

  まずい………

  デュークは表面上はにこやかに笑いながらも、 内心で自分の欲望をもてあましていた。

 「アイス、 美味しいですねv」

  そんなデュークの心情も知らず、 ニコルはただ無邪気にアイスを食べ続けていた。