Dear my dearest

 

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  驚いたのはニコルとデュークだった。

  デュークは乱暴にニコルを彼女の手から奪い返すと自分の胸の中へとしまい込む。

  ニコルは頬に手をやったまま、 また呆然としていた。

 「ジェンナ〜〜」

 「いいじゃない、 ほんのご挨拶のキスよ。 それも頬にちょっとだけ」

 「ジェンナ!」

 「はいはい………あなたにもしてあげましょうか? 最後に記念にv」

  最後という言葉にデュークははっとした。

  見るとジェンナはにこにこと自分を見ている。

  しかしその目を見て悟った。

  もう彼女はデュークとの遊びを止めると決めたのだと。

  あなたもそうでしょう? とその目が語っていた。

  デュークの目が和らぐ。

 そうだ、 もう自分ももう・………

  腕の中の温かい存在が自分を繋ぎ止めている。

 「………そうだ、 な……記念か……」

  そのつぶやきにジェンナの笑みが大きくなる。

  そしてデュークの頬に顔を近づけた。

  と、

 「だめ!!」

  突然、 それを止める声があった。

  同時にデュークは自分にしがみついてぐいぐい押す腕に気を取られる。

 「ニ、 ニコル?」

 「だめ〜! キスしちゃだめ!!」

  見るとニコルが真っ赤な顔をしてデュークとジェンナの間に立ちふさがっていた。

  きっとジェンナを睨みつけながら、 デュークを自分の後に押しやっている。

  「デューク様は僕のものだもん! キスしていいのは僕だけだもん!」

  真っ赤になりながらもそう必死に告げる。

  呆気に取られていた二人は、 次第にその表情を綻ばせていった。

 「ふふふ……そう、 そうよね。 デュークはもうあなたのものですものね。 勝手にキスしちゃいけないわね」

  ジェンナが楽しそうに笑う。

  「じゃあね。 ニコルちゃん、 会えて嬉しかったわ。 ほんと、 一度是非遊びに来てちょうだいね」

  そう朗らかに言うと、 ひらひらと手を振りながらその場を去っていった。

  残った二人はその優雅な後ろ姿をただ見送った。







 「…………ニコル、 私がキスされるの嫌だったの?」

  しばらくしてデュークがぽつりと囁く。

  その言葉にニコルは今更ながらに自分のしたことに慌てる。

 「だ、 だって……だってデューク様にキスしていいの僕だけだもん……ジェンナさん綺麗だけど他の人の

奥さんだし、 デューク様は………」

 「君のものだものね」

  最後は小さくなった言葉を継ぐようにデュークが言った。

  そして後ろからそっとニコルを抱き締める。

  ニコルは真っ赤になったままデュークの腕にしがみつくと、 こくんと小さく頷いた。

  それを見たデュークの口元に満足そうな笑みが浮かんだ。