Dear my dearest

 

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   「赤ちゃん………」

  ニコルがじっとジェンナの腹部を見つめる。

  が、 いきなりデュークはジェンナの腕を掴むとニコルから離れたところへと彼女を連れていってしまった。

 「デューク! 何よいきなり、 びっくりするわね!」

 「ジェンナ………」

  彼女の文句に、 しかしデュークは耳を貸す余裕もない様子でちらちらと置いてきたニコルを気にしながら

彼女に小声で問い掛けた。

 「ジェンナ、 まさかとは思うが………まさか私の子…ということはないだろうな」

 「っ!………」

  ジェンナはデュークの言葉に目を丸く見開いた。

  次の瞬間、 大きな声で笑い出す。

 「な、 何言ってるのよっ くっくっく……心配しなくてもちゃんと主人の子供よ。 それくらい気をつけてるわよ」

 「ならいいが………」

  あまりにも身に覚えがありすぎて、 子供が出来たと聞いた瞬間に頭の中がパニックになってしまったのだ。

  どうしても確かめずにはいられなかった。

  不義密通の子供を自分の主人の子と偽る貴婦人は周りにたくさんいるのだから。

 「私が他人の子を主人に押し付けるわけないでしょう、 そんなバカなこと。 私はあの人以外の子を

産むつもりは全くないんだから」

  きっぱりと言いきるジェンナにデュークはほっと胸を撫で下ろした。

  その姿にジェンナの目が光る。

 「………あなた変わったわね。 以前なら子供が出来たって聞いても鼻であしらってたんじゃなくて?

自分の子供じゃないって………今までにも何度かあったものね、 こういうこと」

 「……彼女達は私との結婚が目的で偽りを言ったんだ。 実際には妊娠すらしていなかっただろう」

  苦虫を潰したような顔でそう答える。

 「それにしても………あの少年のせい? 確かあなたあの子のこと嫌ってたんじゃなくて?」

 「………前は前だ。今は違う」

 「ふふ、 ニコルちゃんって本当に可愛いものね。 貴方が宗旨変えしたのもわかるわ」

 「勝手に言ってろ」

 「はいはい、 じゃあ私はもう行くわね。 主人があちらで待っているから………ニコルちゃんにも

挨拶しなきゃ」

 「お、 おい!」

  デュークが止める間もなくジェンナはさっさとニコルの元に戻っていった。

 

  何を話しているのだろう………

  ニコルは自分から離れたところで何か話し込んでいる二人をじっと見ていた。

  心の中にまた不安が沸き起こってくる。

  デューク様、 なんだかとっても慌ててたみたい………それにあんな急いでジェンナさんを連れていって

あの人と内緒のことでもあるのかな・・……僕に秘密の……

  ちょっとむっとする。

  デュークの奥さんは自分なのにと思う。

  さっき僕が一番だってそう言ったばかりなのに……

  悲しくなるのと同時にむくむくとデュークにたいする独占欲が出てくる。

  そうだもん、 僕はちゃんとデューク様の奥さんなんだから! どんなに綺麗な女の人が来てもダメだもん!

  そう考えていたニコルは、 自分の所へと戻ってくる二人を見て慌てて居住まいを正した。

  ジェンナはなにやらにこにことしながらこちらに向かってくる。

  その後をデュークが苦虫を潰したような顔で続く。

 「………?」

  ニコルは自分が思っていたような雰囲気とは違うものを感じ、 ちょっと首を傾げた。

  何をしゃべっていたのだろう。

 「ニコルちゃん、 私そろそろ失礼するわね。 主人があちらで待ってるものだから………会えて嬉しかったわ、

またお会いしましょうね。 そうだ、 私のところにも是非いらしてちょうだいな。 デュークのことをいろいろ教えて

あげる」

 「ジェンナ!」

  悪戯っぽくそう言う彼女にデュークが慌てたように言葉を遮る。

 「ほら、 ご主人が見ているぞ。 早く行った方がいいんじゃないか」

 「あんもう少しお話したかったのに……それじゃあね、 ん〜v」

 「!!!」

 「ジェンナ!!」

  おもむろにジェンナはニコルを抱き寄せると、 そのすべすべした頬にちゅっとキスを送った。