Dear my dearest

 

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   「あら……v」

  ニコルの笑顔を目の当たりにしたジェンナはきらりと目を光らせた。

  そして優雅な足取りでするりとニコルの前まで来ると、 おもむろに手を伸ばした。

 「なんて可愛いのっvv」

 「☆☆☆〜っ!!」

 「ジェ、 ジェンナ!!」

  ニコルは突然良い匂いのする体にぎゅっと抱きしめられて、 頭の中が真っ白になった。

  何が起こったのかとっさに理解できない。

  ただ自分が柔らかいものに包まれているのだけはわかった。

  その隣でデュークがうろたえた様子で慌てて二人を引き離そうとした。

 「ジェンナ! いきなり何を…っ」

 「あら、 いいじゃない。 こんな可愛らしい方今まで見たことないんですもの。 うふふv いい抱き心地v」

 「抱き……っ ダメだ! ニコルから離れるんだっ」

 「あん☆」

  むりやりデュークにニコルを奪い取られ、ジェンナは心底残念そうな顔をした。

 「もう……せっかくいい気持ちだったのに」

  恨めしそうな目でじっとデュークを見る。

  デュークの腕の中でニコルはただ呆然としているだけだった。

  い、 一体今何が・………

 「ねえ、 デューク、 もう少しだけ貸して?」

 「ダメだ!」

  目の前でデュークとジェンナが何やら言い合っている。 というか、 デュークが必死に自分を彼女から

隠そうとしているようだった。

  その頃になってやっとニコルはジェンナが自分に抱きついた……彼女の方が若干背が高いので、

抱きこまれたというべきか、 ことがわかった。

  そして今ももう一度ニコルに触ろうとしてデュークの防御にあっているということも。

  ………この方って一体………

  外見とは違う、 そのパワフルさに驚いてしまう。

  しかしそれが少しも嫌味ではない。

  ニコルはジェンナに今までデュークに近づいてきた女性達とは違うものを感じた。

  そして彼女をもう怖いと思わなくなっている自分に気付いた。

  だって、 この人の目ってとっても優しそう………

  そう思いながらじっとジェンナを見つめていると、 ジェンナの方もその視線に気付き、 にっこりと笑い

かけてきた。

  思わずにこっと笑い返す。

 「ニコル?」

  その様子に気付いたデュークが怪訝そうにニコルを見下ろした。

 「デューク様、 この方ってとっても素敵ですね………お母様よりいい匂いがするし、 とってもいい気持ち

になるの」

 「お母………」

  その言葉に二人は絶句した。

  まさかニコルの母と比較されるとは思わなかったのだ。

 「……くっ! あっははははっ」

 「デュークっ!」

  たまらずデュークが笑い出すと、 ジェンナが憤慨したようにそれを咎める。

 「わ、 悪い………でもそうか……そうだよな、 確かにニコルから見るとジェンナは……」 

 「失礼ねっ! 私はまだ26よ!」

 「あ……ご、 ごめんなさい! 僕、 そんなつもりじゃ……」

  自分がまずいことを言ったことに気付いたニコルは慌てて謝りの言葉を口にした。

  せっかく少し元気になったのに、 またしょぼんと俯いてしまう。

  それを見たデュークとジェンナはしまったと顔を見合わせた。

 「ニコル、 気にすることはないよ。 たいしたことじゃあない、 ほら、 ジェンナも怒ってないだろう」

 「そうよ、 ………それに母親っていうのもまんざら間違いでもないし」

 「え?」

  何気なしに告げられた言葉に、 デュークとニコルが同時に声を上げる。

 「ジェンナ? それって……」

  デュークがまさかと問う。

  それにジェンナは誇らしげに自分の腹部に手を当てた。

 「そうよ。 赤ちゃん………秋には生まれるわ」