Dear my dearest
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デュークが取った席は2階の桟敷席だった。
個室で二人以外誰もいない席の一つに、 デュークはニコルを座らせた。 その間もニコルはずっと黙ったまま、 デュークの腕にしがみつくばかりだった。 あれからこの個室に来る前も、 デュークは次々といろいろな人に話しかけられてきた。 そのたびにニコルの心は小さく縮こまっていく。 自分の知らないデューク、 知らない世界。 華やかで綺麗だとばかり思っていた世界が怖いものでもあるのだと肌で感じ取る。 そしてデュークもまたその世界の一人なのだということも。 あまりに彼が優しいので今まで忘れていたが、 クレオール侯爵家は国でも有数の大貴族なのだ。 その当主であるデュークに近寄ろうとする人々も大勢いることだろう。 男女問わず。 「ニコル?」 自分を覗きこむ優しい瞳を見つめる。 心配気に少し眉を寄せて、 それでも彼はとてもとても素敵だった。 こんな、 自分にはもったいないくらいに。 そうだ、 こんな僕みたいな子供、 全然デューク様にふさわしくないのに…… 彼の側に似合うのは、 あの貴婦人達のような綺麗で優雅な人間ではないか。 いまさらながらそのことに気付いたニコルはますます落ち込んでいく自分を感じた。 こんな、 僕みたいなのが奥様だなんて…… 考えれば考えるほどニコルの思考は暗くなっていった。
「ニ、 ニコル?」 困った、 と思う。 今までの自分の乱行がこんな形でニコルに知られてしまうなんて。 いや、 はっきりとは気付いていないだろうが、 それでもどこかで変だとは感じ取ってはいるだろう。 あんなに次々といろいろな女性達が話しかけては色目を使っていったのだから。 ニコルの目の前であからさまに誘ってくる女さえいた。 どうにかニコルにはその意味を気付かれずに済んだようだが…… まずい、 まずいぞ。 どうしたものかと心の中で焦る。 ニコルには自分の今までの乱行を知られたくなかった。 この純真で無垢な彼にだけは。 ニコルに知られたら…… 自分のこれまでの行ないが決して誉められたものではないと、 自分でもわかっているだけに ただではすまないだろうことが容易に想像できる。 少年のショックと嫌悪の色が浮かんだ目が自分を見る、 そう想像しただけで背筋に冷や汗が流れる。 ニコルに嫌われるなんて…… そんなことを思っただけで目の前が暗くなる。 こんなに自分がこの少年に心を囚われてしまっていたなんて今まで思ってもみなかった。 もうニコルのいない日が想像できないほどに。 彼と過ごした日はそう長いものではないというのに。 この愛しい存在を失うことはできない。 そう思い知る。 「………ニコル? こっちを向いてくれないか」 だから、 言葉を尽くして、 これまで自分にあるとは思わなかった己の誠心誠意を込めて、 ニコルの 信頼を、 心を勝ち取るのだ、 そう決心した。
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