Dear my dearest

 

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    その後もデュークに話しかけてくる人は後を立たなかった。

  そのほとんどが女性であることにニコルは気付き、 だんだんと気分が落ち込んでいくのを感じた。

  デュークが女性にとても人気があることを知ったのだ。

  そうだよね………デューク様、 こんなに素敵だもの。

  今もまた別の女性に話しかけられている彼をじっと見つめる。

  デュークはその女性にも今までと同じようににこやかに言葉を返していた。

  言葉を交わすうちに女性がニコルにふと視線を向ける。

  その目に冷たい光が宿った。

  ニコルはまた心の中が萎縮するのを感じた。

  また、 だ。

  デュークに話しかける女性はニコルに様々な視線を送ってくる。

  それは今のように冷たいものであったり好奇心に満ちたものであったりした。

  その視線の中に敵意を感じることもあった。

  どうして………

  理由がわからずニコルはただ怯えるばかりだった。

  怖い………

  今まで宮廷に生きる貴婦人の強かで醜い面を知らなかったニコルは、 初めて女性から敵意を

向けられて戸惑い、 怯えた。

  女性がこんな怖いなんて思いもしなかった。

  だんだんとこの場にいることが怖くなる。

  ニコルはデュークの腕に隠れるようにしがみついた。

 「ん? どうした、 ニコル」

  やっとデュークがニコルの様子がおかしいことに気付いた。

  俯いた顔を覗き込む。

 「………デューク様……」

  自分に向けられた優しい瞳にニコルは泣き出しそうになった。

  すがるように見つめてしまう。

 「ニコル? どうした、 気分でも悪いか?」

  腕にしがみつく少年にデュークが眉をひそめる。

  そして周りを気にする様子もなく、 少年をその両腕に抱きしめた。

  側にいた女性の目が大きく見開かれる。

  今まで散々浮名を流してきたデュークがそんな子供のような少年を愛おしそうに抱きしめるなど、

想像もしてみなかったのだ。

 「……デューク、 今日のところは失礼するわ。 また誘ってくださるわね」

 「あ、 ああ………」

  女性の言葉にデュークは気もそぞろに答える。

  明らかに自分の言葉を聞いていない彼に、 しかし女性は悔しそうにしながらもその場を黙って

立ち去った。

  デュークがその少年に気を取られ、 自分のことなどもう目もくれていないことがわかったから。

  女性が立ち去ったことも気付かず、 デュークはただニコルのことだけを心配していた。

  いつからこんなに元気がなくなっていたのか。

  少年の様子の変化に気付かなかった自分に歯がみする。

 「ニコル、 何か言ってくれ」

  黙ったまま自分の腕に縋る少年にデュークは再度言葉を促がした。

 「………デューク様、 女の人のお知り合いが多いんですね」

 「え………?」

  ニコルがぽそっとつぶやく。

  デュークは言葉に詰まった。

 「さっきからデューク様に話しかける人って綺麗な女の人ばっかりで………デューク様も楽しそうに

お話してるし………」

  そう言う少年の目がまた悲しそうに潤んでくる。

 「女の人達、 僕に怖い目向けてくるし………僕、 どうしたらいいかわからなくって………」

 「ニ、 ニコル……っ」

  その場で泣き出しそうになったニコルにデュークが慌てる。

  しまった………!

  自分と関係した女性達がニコルを見てどう思うかということを考えていなかったことに気付く。

  そして次から次へといろいろな女性達と親しそうに言葉を交わしていく自分を、 ニコルがどう思う

かということも。

  今、 ニコルは明らかに自分の知らないデュークを見てショックを受け動揺している。

  な、 なんとかしなければ………

 「ニコル。 と、 とりあえず、 桟敷に行こう。 な?」

  落ち着いたところでニコルを宥めようと、 デュークが予約した席に少年を促がす。

  ニコルはデュークの腕にしがみついたまま、 黙って彼についていった。