Dear my dearest

 

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    「うわあ……」

  ニコルは目の前にそびえ立つ煌びやかにライトアップされた建物に感嘆の声を上げた。

 「綺麗……」

  あちらこちらに設置された照明に照らし出された建物はまるでこの世のものではないようだった。

  そしてその中に、 煌びやかに着飾った人々がぞくぞくと入っていく。

  みんなニコルが今まで見たこともないような華やかな人ばかりだった。

  急に自分が場違いな場所にいるような気分に襲われる。

  ……なんだか怖い………

  心細くなったニコルは側にいたデュークの腕にぎゅっとつかまった。

 「ん? どうした、 ニコル。 さあ、 入ろうか」

 「はい………」

  ニコルの様子が少しおかしいことに気付かないデュークはそのまま中に少年を連れていってしまう。

 「………!」

  中に入ったニコルは外観以上に豪華な内装に目を見張った。

  高い天井からキラキラと輝くシャンデリア、 途中から左右に別れて緩やかな弧を描きながら下りる

正面階段、 細密な彫刻が施されている壁や柱、 全てが豪奢だった。

  そしてその中で笑いさざめく煌びやかな人々。

  全てに圧倒されてニコルは声も出なかった。

  ただデュークの腕にしがみつくだけで精一杯だった。

  デューク様……こっち見て……

  デュークが自分に笑いかけてくれたら……そしたらこんな不安な気持ちは消えてしまうのではないか。

  そう切実な思いで彼の顔を見上げるが、 デュークはそんなニコルに気付かず回りを見回している。

 「デュ……」

  たまらず声をかけようとしたニコルの声をさえぎるように、 甲高い女性の声が聞こえた。

 「デューク……っ まあ、 デュークじゃないの!」

  デュークが声がした方向に顔を向ける。

  つられてニコルもそちらに目をやった。

  そこには華やかに装った女性が一人立っていた。

  彼女は嬉しそうに側に近寄ってきた。

  側で見る彼女は一段と美しかった。

  誰……?

  ニコルは不安な面持ちで見知らぬ女性を見つめた。

 「ごきげんよう、 ネリー」

  デュークがにっこりと挨拶をする。

  名前を呼び交わす様子に、 デュークとその女性が親しい間柄なのだとニコルにもわかった。

  漠然とした不安が広がる。

  「ごきげんよう、 ですって? デュークったら……」

  ネリーと呼ばれた女性はデュークを軽く睨みつけた。

 「どういうおつもり? 最近ご無沙汰じゃないの。 私がいくらお誘いしてもちっとも………」

 「ネリー、 その話はまた別の機会に」

  慌てたようにデュークが彼女の言葉をさえぎる。

  そしてちらりとニコルに目をやった。

 「あら………」

  その時、 初めて彼女はニコルに気がついたという表情をした。

 「その子ひょっとして………やっぱり噂は本当なの?」

  なんとも言えない表情で女性がデュークを見る。

  デュークはひょいと眉を上げるだけで何も言わなかった。

 「………わかったわ。 今日は遠慮するとしましょう? またあらためて連絡していただけるわね?

…………そんなお子様じゃあ、 あなたの相手にはならないでしょう? ………楽しみにしているわ」

  そう言うと彼女はちらりとデュークに流し目を送って去って行った。

  ニコルは去り際にデュークに送られた彼女の視線に何か嫌なものを感じた。

  もしかして、 あの人デューク様が好きなんじゃあ………

  そう思ってしまう。

 「………デューク様、 あの方は……」

  思わず小さな声で訊ねる。

 「ん? ………ああ、 ただの知り合いだ。 ガラ子爵の奥方でね」

 「奥方………」

  結婚されているんだ。

  ニコルはそう知ってほっとした。

  結婚している女性ならデュークが好きなはずがない。

  お互い好き勝手に遊ぶ夫婦が多い貴族のことなど何も知らないニコルは、 ただ単純に相手が

結婚しているということに安心した。