Dear my dearest

 

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    ニコルは毎日が楽しくて仕方がなかった。

  あれほど頻繁に外出を繰り返していたデュークは、 ぴたりと出かけなくなった。

  仕事が一段落したのだと言う彼の言葉をニコルは素直に信じた。

  そして毎日を彼と一緒に過ごすことが出来るのを喜んだ。

  デュークはとても優しかった。

  いつもにこにことニコルのことを見ていてくれる。

  優しい言葉で、 仕種で包み込まれ、 ニコルはますます彼のことが好きになっていく自分を

感じていた。

  大好き、 と告げると嬉しそうに笑うデュークが大好きだった。

  そしてお返しにくれるキスもニコルのお気に入りだった。

  楽しい毎日が飛ぶように過ぎていく。

  ニコルはとても幸せな自分を喜び、 そしてデュークと結婚できた幸せに感謝していた。











 「デューク様、 これでいい?」

  デュークが待っている居間にニコルが息せき切って駆けこんできた。

  その姿を見たデュークは口元を綻ばせた。

 「おいで、ニコル」

  その言葉に素直に従う。

  目の前に来たニコルの胸元でかすかに傾げたリボンを結び直してやる。

 「これでいい。 とても良く似合うよ。 思ったとおり、 いや、 それ以上だ」

 「本当?」

  デュークの言葉に、 ニコルはえへへと嬉しそうに笑った。

 「ああ、 本当だ。 今までで一番可愛い。 やっぱり私の見立てに間違いはなかったな」

  そう言って側に控えるカディスを得意そうにちらりと見た。

  カディスは素知らぬ顔を通す。

  最初にニコルの身の回りのものを全てカディスに整えさせたことが、 デュークにはよほど悔しかった

のだろう、 最近デュークは何かと理由をつけてはニコルへのプレゼントを買ってくるようになった。

  あの時、 大きな熊のぬいぐるみを贈った時もそれ以外に服やお菓子などいろいろと買ってきていて

ニコルの目を白黒させたものだが、 それからもリボンやブローチや本など小さな小物から衣服、 帽子

や靴、 お菓子などはもちろんのこと、 ニコルが勉強するための机 椅子などの調度品までを使いやすい

ものをと全て新しい瀟洒なものに変えてみせたり……これにはニコルは喜ぶよりも、 なにしろまだまだ

新しいものだったので、 慌ててしまったが、 ニコルを喜ばせようとする意気込みがひしひしと感じられた。

  果ては動物好きのニコルのために庭に小さな動物園を作ろうかとまで言い出し、 これはカディスに

猛反対され、 しぶしぶとその言葉を取り下げた。

  すっかりニコルに魅せられてしまったデュークは、 少年の何もかもを自分でしてしまわないと気が

すまないようだった。

  今も自分が先日プレゼントした洋服を着るニコルに相好を崩している。

  そしてその目は彼に釘付けだった。





 「さて、 じゃあそろそろ出かけようか」

 「はいっ!」

  促がすデュークにニコルが元気よく頷く。

  その顔は期待できらきらと輝いていた。

  今朝、 今日は芝居を見に行こうとデュークに誘われたニコルは嬉しさに飛びあがりそうになった。

 「僕、 お芝居なんて初めてです!」

 「そうか」

  「カディスさんっ! 僕、 今日デューク様にお芝居に連れていってもらえるんですっ」

  はしゃいでカディスにまで報告するニコルをデュークは満足そうに眺めていた。

  夕方、 仕度をする時までニコルはずっとはしゃぎ続けた。

  そして今、 ニコルの胸は期待と興奮でドキドキと苦しいほどに高鳴っている。

 「ニコル様、 どうぞ楽しんで行ってらっしゃいませ」

 「はいっ! 行ってきますっ」

  にこやかに二人を送り出すカディスにニコルがぶんぶんと手を振る。

  そしてデュークに導かれるまま、 馬車へと乗り込んだ。