Dear my dearest

 

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    執事がそのような事を考えているとも知らず、 ニコルは楽しそうにデュークとのおしゃべりに

夢中だった。

  デュークが自分のそばで笑ってくれるのが嬉しくて仕方がない。

  優しい目で自分を見てくれるのがくすぐったくて、 でもとても嬉しくて、 なおさらはしゃいでしまう。

  話をしすぎたのか喉の渇きを覚えたニコルはお茶を一口口に含み、 ふとデュークを見る。

  デュークもカップに口をつけるところだった。

  その口元に目をやったニコルは、 昨夜のことを思い出してしまった。

  あの唇が僕にキスしてくれたんだ………

  「ん? どうした、ニコル」

  ぼうっと自分を見つめるニコルに気付いたデュークが声をかける。

  途端、 ニコルは真っ赤になった。

 「な、 なんでもありませんっ」

  慌てて首を振る。

  それでも一旦思い出してしまった記憶は、 簡単に消えてくれない。

  うわ……感触まで思い出しちゃった……っ

  抱きしめられた時のデュークの暖かい腕のことまで思い出してしまう。

  あの腕で抱きしめてくれて……それから………

  思い出すと、 次から次へと記憶が甦ってくる。

  どうしよう………恥ずかしいよお……

  「ニコル、 どうした? 顔が真っ赤になってるぞ」

  首をかしげて問いかけるデュークに、 ニコルは慌てて立ちあがってポットに手を伸ばした。

 「なんでも……っ あっ 侯爵様、 お茶のお代わりいかがですか? 僕、 淹れます」

 「ニコル」

  カップにお茶を注ごうとしたニコルに、 しかしデュークはもういいよ、 と手で制した。

 「それよりね、 ニコル」

 「はい?」

  何事かを言おうとするデュークに、 ニコルはまた椅子に腰を下ろした。

  しかしデュークはそれを見ると、 手でこちらにおいでと手招きした。

  何も思わずニコルが素直に側に近寄っていく。

 「っ!」

  近くまで来たニコルをデュークはぐいっと自分の方へと引き寄せた。

  そのまま自分の腰の上に下ろしてしまう。

 「こ、 侯爵様……っ」

  驚いたニコルが慌てて恥ずかしそうに身をよじる。

 「それだ」

 「え?」

  逃げようとしたニコルは、 デュークの言葉に動きを止めた。

  何だろう、 とデュークを仰ぎ見る。

 「ニコル、 どうしていつまでも私のことを侯爵と呼ぶんだい?」

 「え……?」

 「いいかげん名前で呼んでくれないかな」

 「名前?」

  名前……名前……と考えたニコルは、 みるみる頬を染めていく。

 「ほら、 言ってごらん。 ” デューク "って」

 「そんな……」

  促がすデュークにニコルが恥ずかしそうに俯く。

 「簡単だろう? ほら……」

  デュークはそんなニコルをおかしそうに見下ろしながら再度促がす。

  しかしニコルはデュークの膝の上でもじもじと身をよじるだけで、 口を開こうとしない。

 「ニコル?」

  ほらほらとデュークは俯いたニコルの顔を覗き込む。

 「……………デュ……デューク……様…」

  小さくつぶやくような声がやっと言葉を紡ぐ。

 「小さくて聞こえなかったな。 もう一度言ってくれないか?」

 「……デューク、 様」

  今度はもう少し大きな声が答える。

  言ったニコルはもう恥ずかしくて仕方がないという表情だ。

 そんなニコルに、 デュークはよくできました、 とばかりに、 少年の滑らかな頬にキスを送るのだった。