Dear my dearest
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「はい、 侯爵様」 「ああ、 ありがとう」 差し出されたカップをデュークはにこにこと笑いながら受け取った。 「これね、 僕が焼いたお菓子なんです。 侯爵様、 お好きかなあって………」 「ニコルが? 私のためにかい? それは是非いただかないとね」 早速、 目の前に置かれたケーキの皿に手を伸ばす。 その様子をニコルは真剣な表情で見つめていた。 どうしよう………美味しくないって言われたら……… 口の中にお菓子が消えるのをどきどきしながら見る。 「……ニコル、 そんなに見つめられると食べにくいよ……」 「あっ ごめんなさい! だって、 侯爵様気に入ってくださるかなって心配で………」 苦笑するデュークにニコルが慌てて下を向く。 顔を赤らめて恥ずかしがるニコルを、 デュークはおかしそうに見つめた。 そして手を伸ばして少年の頬に触れる。 「美味しいよ、 とっても。 ニコルが私のためにわざわざ作ってくれたと聞くと余計に美味しく感じる」 その言葉に、 途端に少年の表情がぱっと明るくなった。 「えへへ……よかった。 喜んでいただけて。 また頑張りますね。 侯爵様が美味しいって言って くださるように」 明るいニコルの笑顔にデュークもまた楽しそうに笑った。
二人の様子を見ていたカディスは苦笑を禁じえなかった。 昨夜とは一変して、 今日のこの仲の良い様子はどうだろうか。 どうやらデューク様はちゃんとニコル様とお話し合いになられたようだ。 居間で仲良く午後のお茶の時間を過ごす二人を眺める執事の目は優しかった。 少年を気に入っているカディスとしては、 主人と少年が仲むつまじく過ごしてもらうことが一番の 望みだった。 最初は何故こんな少年が…とも思ったが、 今となってはニコルがこの家に来たことはとても 幸運だったのだとしみじみ思う。 あんなに可愛くて優しいお方は滅多におられまい。 カディスはこのまま平和な時間が続くことを願っていた。 それにしても……… デュークの変わりようには苦笑するほかない。 今、 デュークの意識はニコルにしか向けられていない。 そしてその目には確かな愛情が芽生えている。 今朝も……… 朝の一幕を思い出したカディスは笑いながら首を振った。 今夜の舞踏会の招待状が……。 他にもたくさん手紙が来ております。 すべておなじみの方々からの お誘いのものかと…」 「ああ……」 朝食後のお茶を飲んでいたデュークは、 カディスが差し出した手紙の束に気のない視線を向けた。 「侯爵様、 お仕事ですか? ………今日はお出かけされるんですか?」 ニコルが心なしかしょんぼりとしながらデュークを見る。 「いや。 今日も何も予定はない。 ニコル、 君と一緒に過ごそう」 「だってあんなにお手紙が………」 「たいしたものじゃない。 仕事とは関係ないつまらない手紙だけだよ」 「お仕事じゃないんですか?」 「ああ。 放っておいても支障ない。 ただの挨拶だよ」 聞いていたカディスは目を見張るほかなかった。 タリーニ男爵夫人はデュークが先日より狙いをつけていた相手のはずだ。 ガラ子爵夫人はもうだいぶ長い付き合いで、 今まで誘いがあって断ったことなどない。 その以外も、 女性からの手紙は必ず目を通していたデュークが 「つまらない」 の一言で放り出すとは。 ニコル様のお力はたいしたものだ。 カディスはそう感心せずにはいられなかった。
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