Dear my dearest

 

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    ニコルは自分が何を口走ったのか、 すぐには気付かなかった。

  ただデュークが寂しそうな顔をするのを見ていられなかっただけだ。

  それに自分が彼を嫌っているなんていう誤解を解きたい、 その一心だった。

  あれ………? 僕、 今何て……………

  目の前ではデュークが嬉しそうな顔をしている。

  ついさっき自分が言った言葉が耳に甦ってきた。

 ” 侯爵様のことが大好き………っ ”

  思い出したニコルは途端居たたまれない気持ちになった。

  僕はなんて事を………っ!

  恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がない。

  顔が火照っているのが自分でもわかる。

 「あ……僕……え……え…っと……」

  あわあわと一人慌てる。

  そんなニコルをデュークがにこにこと眺めている。

  どうしよう、 どうしよう………恥ずかしい……っ

  恥ずかしくて彼の前に黙っていてられない。

  手に持ったぬいぐるみで顔を隠そうとしたが、 そんなことぐらいではこのとてつもない恥ずかしさは

納まらない。

  だから………

 「ニコル……?」

  デュークはニコルが取った行動におかしさをこらえきれない声で呼びかけた。

  ニコルは大きなぬいぐるみを抱えたまま、 ごそごそとシーツの中に潜り込んでしまったのだ。

  その姿にベッドの端でおとなしく一人遊んでいたトートが新しい遊びだと勘違いして駆けより、

一緒に潜り込もうとする。

  すっぽりと頭まで潜り込み、 隠れたつもりでいる少年の姿にデュークはますますおかしさと

愛しさがこみ上げる。

  こんな、 子供のニコルがとても愛しい。

 「ニコル? そんな格好で暑くないかい?」

  無理矢理大きなぬいぐるみと一緒に頭まで潜り込んだのだ。

  オマケに子犬まで一緒だ。

  中は暑く息苦しいに違いない。

 「出てきてくれないかな」

 「………」

 「君の顔が見たいんだけどな」

 「………………」

  しかしニコルはじっとシールに潜ったまま、 うんともすんとも言わなかった。

  どんな顔をしてデュークとしゃべればいいのかわからなかったのだ。

  どうして僕はあんなことを………恥ずかしい……っ

  自分が言った告白を思い出し、 一人また顔を赤らめる。

  どうしよう………侯爵様、 このままお部屋出ていってくれないかな………

  そう願うニコルだったが、 デュークは一向にその場を去ろうとはしなかった。

  去れる訳がない。

  こんな可愛い告白を受けたのだ。

  どうやって少年の想いに答えようか、 デュークは嬉しさに沸き立つ心でそう考えていた。

  でもその前にまず………

  少年をこのシーツの繭からおびき出さなければ。

  こんもりと盛りあがった塊を楽しそうに見る。

  しかし、 口から出た言葉はため息混じりのものだった。

 「………やっぱり私のことを嫌っているんだね、 顔も見せてくれないなんて…………。 わかってた

けどね、 君がさっき言ってくれた好きだって言葉が私への気遣いだってことぐらい」

 「違います…っ!」

  あからさまにため息をついて見せるデュークに、 ニコルががばっとシーツを跳ねのけて飛び起きる。

 「違います! 僕、 本当に、 本当に侯爵様が好きなんだから……っ! 嘘じゃないもん………!」

  そう言い放ったニコルを暖かい腕が包みこむ。

 「!」

 「嬉しいよ」

  デュークに抱きしめられて、 ニコルは目を白黒させた。

  僕、 侯爵様に抱きしめられてる………っ

  大きな腕にぎゅっと苦しいほど抱きしめられ、 しかしニコルは不思議なほどの安心感を覚えた。

  侯爵様って大きいんだあ………

  その腕の中の心地よさにうっとりとする。

  だからデュークが何を言っているのか、とっさにわからなかった。

 「………ニコル、 キスしていいかい?」

  ぽうっとするニコルにデュークがそっと囁く。

  そして黙って自分を見つめる可愛い顔に自分の顔を近づけていった。

  ふっくらとした唇にそっと口付ける。

  ぴくんと腕の中の体が小さく跳ねる。

  しかしデュークは腕の中からニコルを解放しようとはしなかった。

  甘い…………

  唇の瑞々しい甘さに陶然とする。

  少年を怯えさせないように怖がらせないように、 デュークはゆっくりとその甘さを味わった。