Dear my dearest

 

40

 

 

 

 

 「……ニコル、 こっち向いてくれないかな」

  依然顔を隠したままの少年にデュークがその顔を見たいと告げる。

  しかしニコルはいやいやと首を横に振るばかりだった。 が、 真っ赤に染まった耳が、 それが恥ずかしさ

からであることを示している。

  デュークは少し苦笑いすると、 あからさまにため息をついて見せた。

 「困ったね………やっぱり私は君に嫌われているんだね。 顔も見たくないほど」

 「ちがっ……!」

  デュークの悲しそうな声にニコルは慌てて顔を上げて否定した。

  顔を上げて、 しまったと思う。

  目の前のデュークはにこにこと笑っていたのだ。

 「…………ずるい」

  思わずそんな言葉が出る。

  だがデュークは気にする様子もなく、 やっと顔を見せたニコルの頬にそっと手を当てた。

  ぴくんとするニコルに構わず、 顔を近づける。

 「私のことが嫌いかい?」

  間近に迫るデュークの端正な顔にニコルはぽおっと見とれてしまう。

 「……嫌い……じゃありません」

  近づく顔から目が離せない。

 「でもキスが嫌だから泣いたんだろう?」

 「あれは………だって、 侯爵様、 あんなところで突然………。 それにとっても慣れてらっしゃる

みたいで……なんでもないって顔で……」

  その時の気持ちを思い出したのか、 ニコルの表情が曇る。

  デュークは心の中で自分に舌打ちした。

  ニコルがまだ子供だということも忘れてあんな公衆の面前でキスした自分が腹立たしくなる。

  そうだ。

  ニコルはまだ子供なのだ。

  おそらく恋もまだなほどの。

  それなのに自分はそんなことも考えずにいつものように………

  ニコルが驚いて泣き出したのも無理ない。

  可哀想に、 どれほど恥ずかしかっただろう。

 「すまなかった、 やっぱり私が悪いな」

  心の底から謝罪の言葉が出る。

 「君の気持ちも考えず、 あんな人前でキスするのは良くなかったな」

  何も知らず、 少しもすれていない無垢なニコル。

  そんなウブな少年がとても可愛く、 愛しい存在に思える。

  いまも自分の言葉に目の前で恥ずかしそうに目を伏せているニコルが何とも言えず、 可愛い。

  そう思ってしまう自分が不思議だった。

  こんな子供に心惹かれる自分など考えもしなかった。

  しかしどうしてもニコルが愛しいという気持ちが抑えられない。

  仕方ない、 惹かれてしまったものは。

  デュークはニコルに惹かれる自分を素直に認めることにした。

  その心のままに少年のもう片方の頬にも手を添え、 両手で少年の顔を包み込む。

  ニコルが少し不安そうに自分を見つめている。

 「………私とのキスは嫌じゃない?」

  ニコルを怖がらせないように、 そっと優しく囁く。

  こくんとちいさく頷く様子に愛しさが募る。

 「……私は……? 私のことは嫌いじゃない?」

 「そんな………」

  問いかけられ、 ニコルが必死に首を横に振る。

 「侯爵様のことを嫌いだなんて……っ そんなこと………」

  自分を見る少年の目はまぶしいほどに透き通って見えた。

 「僕、 侯爵様のことが大好きです……っ!」

  そう告げられた瞬間、 デュークは自分の目の前がぱあっと明るくなるのを感じた。