Dear my dearest

 

39

 

 

 

    デュークはぬいぐるみを小脇に抱えたままベッドに近寄ってきた。

  その様子をニコルはただ黙って眺めていた。

  何故彼がそんなものを持っているのか、 わからなかった。

  それはあまりにもデュークに似つかわしくないものだった。

  そんな可愛らしいものは。

 「………君のものだ」

  近くまで来たデュークは、 ベッドの端に座ったままのニコルに手に持ったぬいぐるみを差し出した。

  目を丸くしたまま呆然とそれを受け取る。

  隣でトートが巨大な熊に驚いてきゃんきゃん吼え出した。

  自分のテリトリーに入ってきた見知らぬものに警戒心を剥き出しに吼えている。

  しかしニコルは子犬を諌めることも忘れ、 自分の両手に余るほどのそれをじっと見つめる。

  口元をにっこりと笑う形に縫い取られた熊が自分を見返している。

  ふわふわとしたぬいぐるみを両手に抱きしめ、 ニコルは自分を見つめるデュークに目を向けた。

  どうして………

  その目がそう問いかけている。

 「これで機嫌直してもらえるかな? 私を許してくれるかい?」

  デュークがぎこちなく笑いながらそう言う。

  ニコルはその言葉にまた目を見開いた。

  どうしてデュークが謝らなければならないのだろう。

  勝手に泣き出して、 部屋に閉じこもってしまったのは、 悪いのは自分なのに……

  それなのに目の前にいる彼は、 自分が悪いと言っている。

 「どうして………」

  ニコルはぎゅっとぬいぐるみを抱きしめ、 その柔らかい塊に顔を埋めながら小さくつぶやいた。

 「ん?」

  その声をデュークは聞き逃さなかった。

 「どうして、 侯爵様があやまるんですか? …………悪いのは僕なのに……」

 「どうして? 君は悪いくないよ。 君のことを考えないで勝手にキスした私が悪い………嫌だったん

だろう? 私にキスされて。 悪かった」

  デュークがすまなそうにそう答える。

  しかしその言葉にニコルはぱっと顔を上げた。

 「そんなっ! ちがいますっ 嫌なんかじゃ………っ」

  そう言ってしまって、 顔を赤らめた。

  そしてまたぬいぐるみに顔を埋めてしまった。

  驚いたのはデュークの方だ。

  てっきりニコルは自分にキスされて、 それが嫌で泣き出してしまったのだと思ったのだ。

  だが、 ニコルはそんな自分の言葉を否定した。

  では………

 「嫌、 じゃなかった……?」

  そう小さくつぶやいた声に、 ニコルはますますぬいぐるみに深く顔を埋める。

  髪の毛の間から覗く耳が真っ赤になっていた。

  自分の思い違いに一瞬呆然としたデュークが、 みるみる嬉しそうな表情になった。

  そして目の前で自分のプレゼントに顔を埋める少年の前に膝をつく。

 「………ニコル、 キスが嫌で泣き出したんじゃあないのか? 私とキスするのは嫌だったんじゃあ…」

  その言葉に、 ニコルは顔を隠したままぷるぷると顔を横に振った。

  デュークの顔がますます嬉しそうになる。

 「じゃあ、 私とのキスは嫌じゃあない?」

  少しためらった後、 小さく首が縦に振られた。