Dear my dearest

 

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    自分の部屋へと駆けこんだニコルは、 帰宅に大喜びするトートが足元にじゃれつくのも気付かず、

そのままベッドの上に突っ伏してしまった。

  次から次へと涙が溢れ出て自分でもどうしようもない。

  「……っ ひ…っく…え……え……っ」

  どうしてこんなに悲しいのか自分でもわからない。

  ただデュークが自分の知らない女性とキスしたことがあるのだと思っただけでどうしようもなく

涙が溢れてくるのだ。

  ニコルは自分でも気付かないまま、 デュークの手馴れたキスの影に彼の華やかな女性遍歴を

感じ取っていたのだ。

  しかし今まで同性はおろか女性ともそういう経験がないウブなニコルは、 自分の感情が嫉妬だという

ことに気付いていなかった。

  ただ、 自分の胸の中に広がる嫌な感情に戸惑い、 怖れるばかりだった。

 「どうしよう………侯爵様、 僕のこと変だと思われたんじゃないかな……。 侯爵様は悪くないのに

僕が急に泣いたりしたから………」

  部屋へと逃げ出す直前のデュークの困ったような顔が浮かぶ。

  泣いてばかりいる自分をどうしたらいいのか、 心底途方に暮れている様子だった。

 「呆れてらっしゃるよね……せっかく一緒にお出かけして美味しいもの食べさせてくれたのに、

それを僕が台無しにしちゃったんだもの」

  でも………

  どうしても止められなかったのだ。

  悲しくて、 嫌な気分になって、 どうしようもなかったのだ。

  嫌だと思った。

  デュークが他の誰かとキスするなんて、 すごく嫌だと思ったのだ。

 「どうして……僕だってお母様やお父様達とキスしてたのに……」

  どうして彼が他の人とキスするのが嫌なのだろう。

 「………もしかして、 僕って嫌な奴なんだ………」

  どうしよう。

  デュークにこんな嫌な自分を知られてしまったら………こんな嫌な気持ちを持っていると知られて

しまったら………

 「………嫌われてしまうかも…」

  そう考えただけでぞっとする。

 「あ、 謝らなきゃ………」

  ごめんなさいって……何でもありません、 せっかくのお出かけを台無しにしてしまってごめんなさいって

謝らなきゃ…………

  ニコルはぐいっと袖で涙を拭うとベッドの上に起きあがった。

  と、

  階下から 「いってらっしゃいませ」 という声と扉の閉まる音がした。

 「まさか………」

  慌てて窓に駆けよって外を見る。

  すると、 ちょうどデュークが馬車に乗りこむところだった。

 「侯爵様………!」

  目を見開くニコルの眼下でデュークを乗せた馬車が走り出す。

  デュークは外出してしまったのだ。

  今日はどこにも行かないと言っていたのに………

 「僕がバカなことをしたから………?」

  呆然と馬車が走り去った後を見つめる。

  デュークはこんな自分に愛想をつかしてしまったのだ。

  だからどこかに行ってしまった。

 「侯爵様、 僕のことをお嫌いになってしまったんだ………」

  ショックに真っ青になる。

  胸をズキリと鋭い痛みが走る。

  胸が痛い………っ

  ニコルの目からまた涙が溢れ出した。