Dear my dearest

 

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    ニコルは目の前に出されたお菓子に目を丸くした。

 「うわあ…………」

  銀の器に色とりどりの果物に囲まれた白い塊がある。

  見た目は固い生クリームのようなそれは端が少し溶けて流れ出している。

 「これがアイスクリーム?」

  じっと初めて見るお菓子に見蕩れるニコルをデュークがおかしそうに見る。

 「早く食べないと溶けるぞ」

  その言葉にニコルは慌てて添えられていたスプーンに手を伸ばした。

  端の方をちょっとだけ掬っておそるおそる口に運ぶ。

  途端、 ニコルの顔に満面の笑みが浮かんだ。

 「美味しい………っ 冷たい………っ!」

  自然、 スプーンの動きが速くなる。

 「気に入ったか?」

  夢中になってアイスを食べるニコルの姿に、 目の前でコーヒーを飲んでいたデュークも相好を崩す。

 「はいっ とっても」

  にこにこと嬉しそうに頷くニコルからデュークは目が離せない。

  外出用にとカディスがあつらえた洋服はデュークが考えていたと同じ、 柔らかい光沢を放つクリーム

色の布地で仕立てた可愛いラインの服だった。

  同じ布地で作られた小さな帽子がちょんと頭の上に乗っていて、 ニコルの明るい栗色の髪が映えて

とても可愛い。

  アイスに集中している顔はまだ幼いながらも整った顔立ちで将来絶世の美貌を誇ることは想像に

難くなかった。

  今でも充分に美しいが、な。

  デュークがにやけそうになる顔を必死に抑えながら心の中でつぶやく。

  店にいる男達もニコルの美貌に目を奪われるのか、 ちらちらと視線を向けられるのがわかる。

  しかしその視線に賞賛と共にかすかな欲望の色が混じっている事に気付いたデュークは、 途端

心の中にもやもやとした感情が沸き起こるのを感じた。

  ニコルにそんな視線が向けられることに我慢ならなくなったのだ。

 「侯爵様はアイスクリーム召し上がらないの?」

  そんあデュークの心中に気付かないニコルが、 自分だけがお菓子を食べていることにようやく

気付いて問いかけてきた。

 「あ、 もしかして…………これ、 侯爵様も一緒だった? 僕、 侯爵様の分も食べちゃった?」

  慌てて手元の器の中に少しだけ残った氷菓子に目をやる。

 「いや、 私は…………」

  いらないのだと言おうとしたデュークは、 ふとあることを思いつく。

 「…………そうだな。 じゃあ、 一口だけもらおうか」

  言うなり、 デュークは身を乗り出してニコルの顔に自分の顔を寄せた。

  そしてきょとんとするニコルの唇についたアイスクリームの溶けた跡をペロリと舐める。

  そのままちょんと唇に軽くキスを送る。

 「……っ!」

  一瞬、 ニコルは自分に何が起こったのかわからずぼうっとしていたが、 次の瞬間、 ボンッとまるで

音が立ったように顔が真っ赤になった。

 「ごちそうさま」

  そんなニコルにデュークはにこりとして言った。