Dear my dearest

 

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   「でも侯爵様、 僕もうたくさん持ってますよ?」

  ニコルはデュークに目を向けながら不思議そうに首をかしげた。

 「お洋服もお帽子も靴だって、 カディスさんがこの間全部買ってくれました。 袖を通していないのも

まだまだたくさんあります」

 「いや、 でもな………」

  そう答えながら、 デュークはどう言ったらいいのか内心頭を抱えていた。

  昨夜の夕食時の言葉どおり、 デュークは翌日もどこにも出かけようとはしなかった。

  そして嬉しそうに彼の顔を見るニコルと共に朝食を取っていた。

  その時にふいにデュークが一緒に買い物にでも出かけようかとニコルを誘ったのだ。

 「この都一番の洋装店で君に似合う服を作らせよう。 そうだな………柔らかいクリーム色などが

ニコルには似合うな。 それに瞳の色に合わせて襟元に緑色の………」

  にこにこと話し出したデュークに、 ニコルは戸惑った視線を向けた。

  ついこの間、 なにやかやとたくさん買ってもらったばかりなのだ。

  それなのに………

  今まで質素な暮らしをしていたニコルにとって、 こんなにしばしば、 それもたくさん自分のために

お金を使うなど考えられないことだったのだ

 「それと、 あと帽子や靴や小物もいろいろと揃えようか。 どんなものがいい?」

  戸惑うニコルに気付かずデュークはなおも話し続けている。

  だからニコルはためらいがちに口を開いたのだ。

  洋服などはたくさんあるのだと。

 「でもまだまだ欲しいものがあるだろう? 服だってたくさんあって困るものじゃあない。 いや、 別に

洋服じゃあなくてもいい。 他に欲しいものがあるのか? 何がいい?」

  デュークはニコルの言葉に慌てたように言葉を続けた。

  しかしニコルはふるふると首を横に振り続けるばかりだった。

  朝、 起きた時から考えていたのだ。

  ニコルに何かプレゼントしようと。

  今までの貴婦人達はデュークが言うよりも先にあれこれと欲しいものを遠まわしにねだってきた。

  そしてデュークの方もそれを買い与えることを当然と考えてきた。

  だからニコルも同じだと思ったのだ。

  まさかたくさん持っているからいらない、 と断られるとは思ってもみなかった。

  思惑が外れてデュークは戸惑いを隠せない。

  買ってやろうと言っていらないと断られるなど今までになかったことだ。

  どうしていいのかわからない。

  思わず側に立って二人の様子を見ているカディスに恨めしい目を向けてしまう。

  まったく、 カディスの奴があれこれと先に買ってしまうから………っ

  自分がそう指示したことも忘れて八つ当たりする。

  デュークに非難の目を向けられたカディスはいい迷惑だった。

  元はといえばニコルの世話を押し付けたのはデュークの方だったのだから。

  カディスはその言葉にしたがってニコルの身なりを整えようとしたに過ぎない。

  …………まあ、 確かにニコル可愛さにあれこれと多く選び過ぎたかもしれないが………

  しかしデュークにそんな恨めしそうな目を向けられる謂れはない。

  だからカディスはなおもじとっと自分に向けられる視線を素知らぬ顔ではねのけた。

  そんな執事の冷たい態度に、仕方なくデュークはニコルへのアタックを再開した。

 「じゃあ…………そうだ、 何か美味しい物を食べに行こうか。 最近評判の店があるんだ。 とても

美味しいアイスクリームを出すらしい」

 「アイスクリーム?」

  聞きなれない言葉にニコルは興味を示したようだった。

  その様子にデュークはやっと少年の興味を引くことができたと勢いこんだ。

 「知らないのか? 砂糖とミルクと氷を混ぜて凍らせたとても冷たくて甘くて美味しいお菓子だ。

口の中ですっと溶けて気持ちがいいぞ」

 「冷たい………溶ける?」

  ニコルはそんなお菓子聞いたこともなかった。

  遠い山の万年雪から切り出されはるばる都に運ばれる氷はそれだけで貴重なものだった。

  それに溶けないように保存するのも大変なのだ。

  都の中でも扱える店は数少ない。

  貴族といっても質素な生活を送ってきたニコルが知らなくても当然だった。

  そして甘くて美味しいお菓子と聞いて、 ニコルが興味を示さないはずはなかった。

 「…………僕そのお菓子見ていたいです」

  ためらいがちに、 しかし期待に瞳をキラキラと輝かせて言うニコルに、 デュークは会心の笑みを

浮かべた。