Dear my dearest

 

 

 

 

   「よろしいの? 今日は花嫁がいらっしゃる日なのでしょう? お迎えするはずの花婿がこんな所に

いらしては……」

  女は自分の首に顔を埋める男にふふっと微笑みながら囁いた。

  そうたしなめながらも女の手は男の背から離れようとはしない。

  それどころか自分のドレスの中に入り込んでくる手を助けるかのように、 かすかに体をくねらせる。

 「かまわないさ。 押しつけられた花嫁などどうせ本気で相手にする気はない。 忠実な執事が

しっかりと出迎えてくれているさ。 それよりもあなたの相手をしている方がずっといい」

 「ふふふ……悪い人……あ…ん」

  女は艶やかに笑いながら男……デュークが、 手早くはだけた胸に顔を埋めてくるのに

あえかな声をもらす。

 「いい匂いだ、 柔らかくて……こちらはどうかな?」

 「あ…ん、 だめ……そんなところ……」

  ベッドの上でじゃれながら下肢に潜り込んでくる手を受け入れる。

 「あ……ああ…ん」

  熟練した手つきに女の声が潤み出す。

  デュークはその声ににやりとしながらさらに愛撫の手を進める。

  案外早かったな……

  以前から目をつけていた男爵夫人だった。

  自分に気がある素振りを見せながらもなかなかなびこうとしない彼女に、 今日こそはと誘いを

かけたのだ。

  しかし貞操が固そうに見えた彼女は、 一旦彼の誘いを受けたと見るや、 それからベッドに至る

までは早かった。

  夫が領地に戻っていると言う彼女はなんとも簡単にデュークを自分の邸に誘ったのだ。

  想像どおり豊満な肉体に身を沈めながら、 デュークは醒めた目で彼女の嬌態を見下ろしていた。

  こんなものか……

  腰を突き入れながら、 早くもこの女に対して熱意が冷めていくのを感じる。

  あれほど魅力的に見えた美貌と肢体にも今はもう何の感慨もわかない。

  自分の下にいるのは、 もはやひたすら男に媚びを売るただの女にすぎなかった。

  やはりジェンナの方がいいな。

  数年来の付き合いである伯爵夫人の顔を思い浮かべる。

  彼女とは肉体関係を持ちながらも恋愛感情は一切入らない。

  入らないからこそ、 この男爵夫人のように自分に媚びるような態度をとらない。

  好きなように思うことを打ち明けられる友人でもある彼女に会いたいと思った。

  案外、 花嫁を迎えるということに自分は動揺しているのかもしれないな。

  そう心の中で苦笑する。

 「あ…っあ…っ」

  デュークの下で女が体をくねらせながら快感を貪っている。

  その淫蕩にゆがんだ顔を見下ろし、 デュークはさっさと終わらせようと決めた。

  いきなり突き上げを激しくされ、 女の嬌声が大きくなる。

  そのまま一気に最後まで突き進む。

  絶頂に麻痺する体から無造作に自分を引き抜くと、 デュークはさっさと衣服を整えた。

 「もう帰ってしまわれるの?」

  ベッドの上で裸身を晒したまま男爵夫人が快感の覚めやらぬ濡れた眼差しで、 上着を羽織る

デュークを眺める。

 「やはり花嫁の顔くらいは見ておこうと思ってね……礼儀上」

 「ふふ……残念ですわ。 またいらして下さるわね?」

 「いずれ……」

  そう甘く囁き挨拶のキスを交わしながらも、 心の中で二度はないと笑う。

  身支度を整えたデュークが部屋を出ようとした時、 部屋の外から遠慮がちに急使を告げる

声がした。

  自分の邸からだと聞いたデュークは、 一体何事かと眉をひそめた。

 「とにかく急ぎお屋敷にお戻りくださるようにとのことです」

  よほど急いだのか息をきらしながら使いの者が告げる。

  何か花嫁のことで不都合があったのか。

  もしや自分の不在にわがまま育ちの高慢な令嬢が臍を曲げたか。

  ありうることにデュークは口をゆがめる。

 「わかった。 すぐに戻る」

  やれやれと思いながらも、 あのカディスが慌てるくらいだからよほどひどい娘なのだろうと想像する。

  幼い頃から自分を世話してくれた老人を助けるためにも邸に戻ることにした。

  その数十分後、 カディスと同じようにとんでもない事実に仰天することになるとも知らずに。