Dear my dearest

 

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    「…………カディス、 あれは毎日こんなことをしているのか?」

  デュークはテラスの椅子に腰を下ろし、 庭を、 いや庭で子犬と走りまわっている少年の姿を

眺めていた。

  その手には水の一杯入った桶がある。

  ニコルは庭師と共に日課である花の水やりをしているのだ。






 「花の手入れ?!」

  それを聞いた時、 デュークは自分の耳を疑った。

 「はいっ 僕、 庭師さんと一緒にお花育ててるんです。 もうすぐ綺麗なお花が咲きますから、

そうしたら侯爵様に一番にお見せしますね」

  初めてデュークと一緒にとった朝食の後、 ニコルはこれから花に水をやりに庭に行くのだと

にこにことデュークに告げた。

  厩舎の馬の世話、 子犬の散歩、 そして今度は庭師の手伝い………

  デュークは眩暈を起こしそうだった。

  かりにも侯爵家に籍を置くものが雇い人の真似事をするなど聞いたこともない。

  反対の声を上げようとしたデュークは、 しかし無邪気に自分を見つめる瞳に結局何も言うことが

できなかった。






 「そうでございますね。 この後はおそらく厩舎で馬番のお手伝いを、 それから厨房で軽くお茶を

されて今度は下男の薪割りのお手伝いをされるか、 それとも洗濯女のお手伝いをされるかと」

 「! 薪? 洗濯? 一体どういうことだ、 それはっ」

 「どうとおっしゃられても………それがニコル様のご日課でございますから」

 「日課………」

  絶句するデュークを心なしか楽しそうに眺めながら、 執事はさらに言葉を続ける。

 「昼食をお取りになった後はご自分とデューク様のお部屋を掃除されて、 それから………」

 「ちょ、 ちょっと待て……っ」

  執事の言葉にデュークは慌てて椅子の背から身を起こした。

 「掃除? 私の部屋はあれが掃除していたというのか?」

 「はい、 デューク様のお部屋は自分でしたいとおっしゃられて……」

 「じゃあ、 あの花やベッドの菓子は………」

 「ニコル様が全部ご自分で用意されたものでございます」

 「あれが………」

  初めて聞く事実にデュークは呆然と庭に視線を向けた。

  そこには笑い声を上げながら水を撒いている少年の姿があった。

 「………変わった子供だな」

  しばらくじっと見つめていたデュークがポツリとつぶやく。

 「そうでございますね。 しかし私にはとても好ましゅう思えます。 ニコル様を見ていると、 とても

心が和みます」

  カディスが庭に穏やかな目を向ける。

  デュークはそれには答えず、 ただ黙って庭に目を視線を送り続けた。