Dear my dearest

 

19

 

 

 

   一体何が……

  デュークが自分にしがみつく者の正体を見ようと手を伸ばしたとき、

  ピカッ………ガシャーーーーンッ!!!

  一際大きな音を立てて雷が落ちた。

  あまりの音の大きさに、 大人のデュークでさえ一瞬身体を強張らせたほどの音だ。

 「ひっ………いやあああああっ!!」

  胸にしがみついていた者がこれが命綱とばかりに必死に体をぶつけてきた。

 「うわ……っ!」

  その重みに、 自分ンの体を支えていた腕をちょうど床から離したばかりのデュークはバランスを

崩し、 胸の中の者もろともドサリと背中からベッドに倒れこんだ。

  クウンクウン……

  そこへ哀れな鳴き声を立てながら、 柔らかい毛皮がデュークの顔に覆い被さる。

 「う……っぷ! な……っ いたたたたた……いたい!」

  慌てて退けようとするが髪の毛に必死にしがみつかれ、 眼前を覆う傷害物をなかなか取り除けない。

 「デューク様! 何かございましたか?! 叫び声が聞こえたようで………」

  そこへ叫び声を聞きつけたカディスが何事かと駆けつけてきた。

  が、 蜀台で主の寝室を照らし、 そこに映し出された光景に絶句する。

 「なんと………」

 「カ、 カディス……っ! なんとかしてくれ!」

  ベッドの上にはニコルに胸にしがみつかれ、 顔に子犬を貼りつけた何とも珍妙な主の姿があった。

 「…………デューク様、 それは何かのお遊びで?」

 「ふざけるなっ いいからこれをどけてくれ!」

  たまらずこみ上げてくる笑いをなんとかこらえながらカディスが尋ねるが、 デュークの方は笑い事

ではない。

  髪の毛に噛みつかれ、 顔を後ろ足でパタパタと蹴られて痛いことこの上ない。

  今までこのような目に会ったことはなかった。

  目の前の障害物を何とか取り除こうと四苦八苦している主人を見かねて、 カディスはベッドに

近寄ると、 主人の顔に居座る子犬を両手で抱き上げた。

  子犬は今度は必死にカディスの腕の中に顔を突っ込み始める。

 「よしよし………それで、デューク様、 何故このようなことに? 叫び声を上げられたのはもしかして

ニコル様でございますか?」

 「何故ってそれは私の方が聞きたいっ 突然部屋の中に誰かが飛び込んできて…………ニコル?」

  そこで初めてデュークはまだ自分の胸にしがみついている人物の正体を知った。

  見下ろすと、 確かに少年が自分にしがみついている。

  顔を胸に埋め、 上からは後ろ姿しか見えないが、 この家で少年といえばニコルしかいない。

 「何故これがここにいる?」

 「それは私にもなんとも………ニコル様は雷がよほどお嫌いのようですね。 怖くてデューク様の

お部屋に逃げてこられたのでは」

 「私のところにか?」

  よりによってどうして自分の部屋に………

  ニコルを見下ろすデュークの顔にはそんな気持ちがありありと浮かんでいる。

 「ニコル様、 もう大丈夫でございますよ。 ほら、 もう雷も遠くに……」

  近寄ったカディスが優しい声でそう囁くが、 まだパニック状態になっているニコルはいやいやと

首を振ってさらにデュークにしがみついた。

  この温かい場所を出て、 また怖い思いをするのは絶対に嫌だった。

  そんなニコルの様子にデュークはため息をつくと、 自分にしがみつく体を無造作にぽんぽんと

叩いた。

 「ほら、 もう大丈夫だとカディスが言っているだろう。 いいかげん離れてくれ」

  その声に、 怖い怖いとばかり思っていたニコルがはっと我に返った。

  今の声は…………

  やっと自分が誰かにしがみついている事に気付く。

 「もういいだろう、 雷は去ったぞ」

  頭の上から聞こえてくる声は、 低くて響きの良いこの声は………まさか………

  ぱっと顔を上げる。

  やっぱり………!

  そこにはずっと会いたかった人の顔があった。

 「…………侯爵様だあ…」

  侯爵が自分を雷から守ってくれたんだ

  雷の恐怖からパニックに陥っていて自分からこの部屋に飛びこんだことを覚えていないニコルは、

単純にデュークが怖がる自分を抱いていてくれたのだと勘違いした。

  やっぱり優しい人………

  嬉しくなって、 何故か自分を見て驚いた顔をしている青年ににこっと笑いかけた。

  そして安心したのか、 泣き疲れたニコルはそのままデュークの胸で眠ってしまったのだった。