Dear my dearest 

 

17

 

 

 

   「あ……ああ…ん」

  藍色のシーツの中でもつれ合う男女の肢体が白く浮き上がる。

 「あ……デューク、 もう…もうダメ……あ…」

  女がひときわ高い嬌声を上げてのけぞる。

 「あ………あああ………」

  女に続くようにデュークも絶頂に達した。

 「は……あ………」

  一息つき、 余韻に浸りながら胸を上下させる女から身を離すと、 デュークは傍らのテーブルに置いた

グラスに手を伸ばした。

  そのまま中のワインをくいっとあおる。

 「私にも………」

  身を起こし、 乱れた髪をかきあげながらそう言う女に、 あらたにワインを注いで差し出す。

  女は美味しそうにグラスを傾け、 喉の渇きを潤おした。

  その彼女の隣にデュークはごろりと仰向けに横たわった。

  女……ジェンナはそんなデュークを見下ろしてふふ、と笑った。

 「ご機嫌ななめね。 そんなに気に入らない?」

 「何が?」

  ジェンナの示す言葉をわかっていながら、 それでもデュークは憮然として尋ねた。

 「あなたの可愛い花嫁のことよ。 それから忠実な執事殿の変心」

 「………可愛いものか」

 「そう? でもあのカディスが気に入っているのでしょう? なら、 よほどいい子なんじゃなくて?」

 「ただの子供だ。 まったく、 どうしてカディスの奴………」

 「あら、 カディスだけじゃないんでしょう。 その子を気に入っているのは」

  ジェンナの言葉にデュークは苦虫をつぶしたような顔になる。

  その通りだった。

  今朝、 外出しようとするデュークにいつもは黙って見送る女中がおずおずとデュークに話しかけてきた。

 ” あの………ニコル様がもうすぐ来られると思いますが、 お待ちにならないので?”

 ” ? 急ぐんだ。 そのようなこと待っていられない ”

 ” でも……あの、 ニコル様は今度こそご主人様のお見送りをと……”

  眉をひそめるデュークに縮こまりながらも、 その女中はニコルの話を続けた。

 ” ニコル様はご主人様とお会いできる事を楽しみにしていらっしゃいます。 少しだけお待ちいただけ……”

 ” 急ぐと言っているだろう ”

  イライラと彼女の言葉をさえぎり、 邸を出たのだ。

 「どうしてあんな子供に皆………私のいない間に何があったというんだ」

  その時のことを思い出し、 なおも顔をしかめた。

 「それだけいい子なのでしょう? その、 ニコルっていう子供は」

 「ふん。 物珍しいだけだろう。 邸に子供がいる事自体珍しいのだから」

  そう言い捨てると、 それでもうこの話は終わりだとばかりにまたジェンナに圧し掛かった。

 「困った人ね」

  首筋に顔を埋めるデュークを受け止めながら、 ジェンナは喉で笑う。

  その声はいつしかまた熱い喘ぎ声に変わっていった。











  そのままジェンナの邸で一晩過ごすつもりだったデュークだが、 突然ジェンナの元に夫である伯爵

から手紙が届き、 それを読んだ彼女が慌ただしく衣服を身につけ始めたために、 その予定は狂って

しまった。

  デュークとベッドを共にしていても遊びは遊び、 愛しているのは夫だけだと豪語するジェンナは、

領地に帰っている夫が落馬して怪我をしたという知らせにすぐに自分も戻ることに決めたのだ。

 「たいしたことはないって書いてあるけど心配だから………しばらく向こうに戻ってくるわ」

  そう微笑むと、 興を削がれて憮然とするデュークの頬に軽くキスをして部屋を出ていった。

 「あなたもたまにはお家でゆっくりなさいな」

  そうからかうような言葉を残して。

 「ゆっくりだと………冗談じゃあない」

  後に残されたデュークは一人ため息をついた。

  彼の憂鬱さを表わすように、 夜の帳に覆われた窓の外ではぽつりぽつりと雨が降り出していた。