Dear my dearest

 

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    爽やかな朝の日差しがふりそそぐ庭に、 きゃんきゃんと子犬の鳴き声が響き渡る。

  そしてそれと共に少年の笑い声が。

 「なんだ、 朝から騒々しい。 それにどうしてこの家に犬の鳴き声がするんだ」

  食堂に入ったデュークは庭から聞こえる声に顔をしかめた。

 「私がニコル様に子犬を差し上げました」

 「お前が?!」

  デュークは驚いた目でまじまじと老執事のすました表情を眺めた。

 「ニコル様は大層動物がお好きなようで………ですからお喜びになるかと」

 「カディス………お前、 どうしたというんだ。 あれが喜ぶからと言って犬をやった? そのために

わざわざ子犬を探したとでもいうのか」

 「厳密に言わせていただければ探したのは私ではなく庭師のモートンです。 私はただ彼にニコル

様のために子犬を探してくれと言っただけでございます」

 「おい、 どうかしたのか? 何故お前があれのためにそんなことをする。 お前、 あれが来て扱いに

困っていたではないか」

 「あの時はあの時。 まだニコル様の事をよく存じておりませんでしたから………今はあの方のことが

とても気に入っておりますよ。 この家に来ていただいて本当に良かったと、 この邸の誰もがそう思って

おります」

 「…………熱でもあるのか? あれがここに来て良かった? 邸の皆がそう思ってる?」

  信じられないことを聞いたかのように、 デュークは呆然と長年自分に仕えてきた老執事の顔を見た。

 「ニコル様はとてもお可愛らしい方ですよ。 それにとてもお優しくて気立てもようございます」

 「可愛らしい?! あれが?」

  デュークが大げさに顔をしかめる。

 「いつ見ても汚い格好をして騒々しくて、 まるで平民の子供のようにがさつでっ あれのどこが

可愛いというんだ?」

 「デューク様も一度ちゃんとニコル様とお話なさいませ。 そうすれば………」

 「あれと? この私が?」

  とんでもないと首を振る。

 「冗談ではない。 遠くにあの姿を見るだけでもイライラするというのに、 ……もういい。 なんにしろ

いずれあれを返してしまえばそれですむことだ」

 「やはりニコル様とのご結婚は白紙に戻されるおつもりで」

 「いまさら何を言ってる。 その為に私はあのアーウィンに下げたくない頭を下げたんだぞ。 いくら悪友と

言ってもあんな新婚ボケした奴に………エリヤ殿から国王に口ききしてもらうために」

 「そうでございますか………」

  断言するデュークに、 カディスは心持ち肩を落としたように見えた。

 「とにかく、 ここにいる間は仕方がない、 あれは一応私の妻という名目にしておくが、 それも

あとしばらくのことだ。 お前もそのつもりでいてくれ」

 「かしこりました………」

  そう言って頭を下げるが、 内心は言いようのない落胆を感じていた。

  本当にニコルを気に入っているのだ。

  今までデュークの相手としてこちらに連れてこられた女性達とは比べものにならないほど、 ニコルは

とても素晴らしい少年だった。

  それをデューク自身が気付いていないことがなんとも口惜しい。

  しかしあれほど嫌い抜いている彼に、 強引にニコルを勧めることもできない。

  カディスはため息をつきながら、 また外出の準備をするデュークに外套を差し出した。

  そしてふと思いついて今まさに出かけようとする主人に尋ねた。

 「デューク様、 ニコル様に差し上げた子犬に犬小屋を作らせようと思うのですが……」

 「………お前に任せる……が、 ほどほどにしてくれ。 ここは動物園ではないぞ」

  まったく、 馬番見習いの次は調教師の真似事でもするつもりか

  ぶつぶつとつぶやきながら外出していくデュークの後ろ姿を見送りながら、 カディスは

もう一度深いため息をついた。