Dear my dearest






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 ニコルは走っていた。

「急がなきゃ。急がなきゃ」
 
 待たせてしまってはいけない。 何しろ相手はデュークの父親、すなわち自分にとってはお義父様なのだ。 

「うわわわ、どんな方だろう」

 初めて会うデュークの父親。 デュークに似ているのだろうか。 素敵な方だろうか。 それとも怖そうな方だろうか。

 半分ワクワク、半分ドキドキしながら、ニコルは廊下を急いで駆けていった。











 「お、お待たせしましたっ!」

 バタンッと勢いよく開いた扉と同時に聞こえた元気な声に、中にいた男性が振り向いた。

「ん?」

 その顔を見て、ニコルはほわあ、と目を見開いた。

 うわあ・・・・・・・デューク様そっくりだあ・・・・・・。

 振り向いた男の顔は、まさにデュークそのものだった。 いや、数十年後の彼と言ったらいいだろうか。 若々しさはすっかり

ないが、しかし歳を経た分雰囲気に落ち着きと深みが増している。

 ・・・・・・・年取ったデューク様もすごく格好良い・・・・・・。

 ニコルは一瞬状況も忘れ、思わずうっとりと男を見た。

 そんなニコルに男の方が先に口を開いた。

 突然部屋に飛び込んできたニコルに驚いた顔をしていた男だったが、しかし自分に見惚れたままの彼に思わずといった

笑みを浮かべる。

「・・・・・・これはこれは。どちらのお嬢さんかな。 見慣れない顔だが、もしかしてデュークの・・・・・・」

「あっ! はいっ! デューク様の妻になりました、ニコルですっ!」

 男の声にハッと我に返ったニコルが慌てて挨拶をする。

「はじめまして お義父様っ」







「・・・・・・・・・・・・お義父様?」

 しばらくの間が空いた後、男が呆然とした顔で呟いた。 男としては、デュークの知り合いかと尋ねたつもりだったのだが、しかし

返ってきた言葉は・・・・・・・。 

「はい、デューク様のお父様なら僕にとってもお義父様ですよね」

「・・・・・・・・・・・・僕?」

 今度は違う言葉に愕然とする。

 僕? 今目の前の少女は僕と言ったか?

 男はもう一度呆然とした顔で目の前に立つ少女・・・いや少年を見た。 最初見た時はあまりの可愛らしさにすぐに少女だと

思ったのだが、しかしよくよく見ると目の前の少年は確かにズボン等男物の服装をしている。 確かに少年のようだ。だが、

そうすると先程聞いた言葉は・・・・・・。

「・・・・・・お義父様?」

 何かの間違いではないかと思いながら口にすると、目の前の少年は嬉しそうにコクコクと頷いた。 

「はいっ デューク様のお父様なら妻の僕にとってはお義父様ですよね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 生まれて初めて男は頭の中がパニックになるという現象を覚えた。

 妻? お義父様? 少年なのに妻? デュークの妻? この少年がデュークの・・・・・・・妻?







「・・・・・・・・っ! デュ、デュークっ! カディスっ! 誰かっ! 誰かおらぬか!!!」






 ・・・ど、どうなさったのかな。

 突然大声を出し始めた男性を、ニコルはポカンとした顔で眺めていた。