Dear my dearest






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「ニコル様っ! お帰りなさいませ。ご無事でなによりでございます」

 邸に戻ったニコル達を真っ先に出迎えたのはカディスだった。

 ニコルの無事な様子を見て、カディスはほっと安堵の表情を浮かべた。

 そんなカディスの姿に、ニコルは申し訳なさでいっぱいになった。 何も言わず黙って出て行ったためにカディス達にも

迷惑をかけてしまった。

「カディスさん、ごめんなさい。心配をかけて……」

「いえ、ニコル様がご無事ならそれでよろしいのでございますよ。 本当に何事もなく……」

 しょぼんと謝るニコルに、カディスは慌ててにこやかな笑みを作った。本当に、ニコルが無事だったのならそれでいいのだ。

「それよりもお疲れではありませんか? お腹の方は? お茶と何かお菓子をご用意いたしましょう」

「カディス、それは今はいい」

 ニコルが返事をする前に、デュークが口を挟んだ。

「は?」

「デューク様?」

 カディスとニコルが同時にデュークの顔を見る。 

 が、デュークは何も言わず、ニコルの腕の中のトートをおもむろに取り上げるとぽんとカディスに手渡した。

そして何も言わずにいきなりニコルの体を抱き上げると、そのまま階段を黙って上り始めた。

「きゃっ! デュ、デューク様?」

 突然のことに、慌ててニコルは落ちないようにデュークの首にしがみ付いた。

「デューク様! 一体……」

 カディスも驚いた顔で階段を上る主人を見上げると、後に続こうとした。

「カディス、しばらく部屋には誰も入ってくるな。 ニコルと二人だけで話がある」

「……は? ………はい」
 
 デュークの余裕のない顔に、カディスは何やらピンと来たようで、素直に引き下がった。

 どうやら主の我慢も限界に来たようだ。 ニコルの家出がよほど堪えたのだろう。

 デュークの心境を察し、カディスも今度ばかりは主人の応援をすることにした。

 デュークが呼ぶまでは誰も部屋には近づけまい。

 しかしニコルの方は一体何が起こっているのかわからず、ただデュークの首にしがみつくだけだった。

「デューク様? 何?」

 困惑の色を浮かべて自分を抱き上げる男を見ている。

 そんなニコルにお構いなしにデュークは階段をさっさと上ると、侯爵家当主の部屋である自室へと入った。







 抱きかかえられたままデュークの部屋に、そしてそのまままっすぐに隣の寝室へと連れて行かれたニコルは、それでも

一体デュークが何をしようとしているのかわからずにいた。

 ベッドの上にポンと投げ出され、起き上がる間もなくその上からデュークがが圧し掛かってきた。

「デュ、デューク様?」

 その状態になって、ようやくニコルは自分の置かれた状況を悟った。

 みるみる顔が真っ赤になる。

「あの……これって……」

 以前、一度だけ経験した、アレ、だろうか。 デュークと本当の意味で夫婦となった、あの夜のことを思い出す。 素肌を

重ね合わせて、色々なことをされた。………考えるだけでおかしな気分になってくる。

「僕、また裸になるの………?」

 真っ赤な顔でもじもじと体を動かしながら、恥ずかしそうに呟く。

 その仕草の可愛らしさに、デュークは自分の体が熱くなるのを感じた。 

 今日こそは、と、そう固く決心する。

 赤く染まった頬にキスを落とし、その耳元で熱く囁いた。

「そう。今度こそ本当にちゃんと君を私のものにしてしまおうと決めたんだ。 君の中の不安が全て消えてしまうようにね。

でないとまた同じようなことが起こってはと心配でおちおち君を一人にもできないから。 ………そして何よりも私の方がもう

これ以上我慢できないんだよ」

「本当に? ちゃんと? 我慢???」

 きょとんとした顔でデュークの言葉を繰り返す。

 ニコルにはデュークが何のことを言っているのかわからなかった。

 どういう意味なのだろうか。 自分はもうすでにデュークのものなのに。 あの夜に、そうなったのではないのか。

「デューク様?」

「ああ、君は知らなかったんだよね。 あの行為にはまだ続きがあるんだよ」

「続き?」

 あれで終わりじゃない? では自分はまだデュークの妻ではないのか。 

 初めて聞く事実にニコルは目を真ん丸くした。

「デューク様、でも………」

 一応、ニコルも大人の営みのことは知識として持っている。 それが当たり前の年齢だ。 しかしそれは男性と女性の間の

ことであって………だからこそ、あの夜の行為が全てだと認識していたのだが………続き? どのような? 男性同士で?

 考えてもわからない。

 困惑した顔で、まじまじと自分の上のデュークを見上げる。

 デュークは自分を見つめるニコルの頬にもう一度キスを落とすと、慣れた手つきで洋服のボタンを外していった。

 自分の服が脱がされていくのを、ニコルは身を固くして見守っていた。 上着が脱がされ、ブラウスも………。

 一度は自分の全てをデュークに見せたといっても、まだまだ真っ白に近い体だ。 恥ずかしさと緊張にニコルはただじっと

デュークのすることを見ているだけで精一杯だった。

 あまりの恥ずかしさに思わず身をよじりそうになるが、それもぐっと我慢する。

 まだ自分はデュークのものになっていないのだというなら、本当に彼のものになってしまいたい。 本当の奥様になりたい

のだ。 大好きな大好きなデュークのものに。

 その一心で、じっとおとなしくデュークのするがままになる。

 しかし、自分の知らない行為がその先に待っていると知って、不安は高まるばかりだ。

 ズボンを脱がされ、下穿きも取り去られそうになった時は思わず声を上げてしまった。

「デュ、デューク様……っ」

 その声の頼りなさに、デュークは一瞬手を止めた。 そして不安気に自分を見上げるニコルに安心させるように笑いかけ、

何度も何度も頬や額、そして露わになった白い肩や首にキスを贈った。

 そして薄く開いたピンク色の唇に自分の唇を重ねていく。

「……ん………」

 何度も何度も啄むようなキスの後、ふっくらとした唇をぺろりと舐め、その中へと舌を侵入させる。 甘い口腔内をくまなく

探るように舌を動かし、中に隠れていた舌に自分の舌を絡ませ、そっと吸い上げる。

「ん………ふ……」


 巧みな口付けに、すぐにニコルの意識は逸れていった。

 ニコルの口から甘い吐息が漏れる。 体のこわばりが次第に溶けていく。

 それを感じたデュークはニコルの体から素早く全ての衣服を取り去り、完全に露わになった肌に愛撫の手を伸ばしていった。