Dear my dearest






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「また是非遊びに来てちょうだいね。 もちろんニコルちゃん一人でも大歓迎よ。 必ずね」

 早く二人きりになりたかったデュークは、自分達もとジェンナに暇乞いを告げたが、しかしすっかりニコルを気に入って

しまっているジェンナはなかなかニコルを離そうとしなかった。

「デュークと喧嘩でもしたら遠慮なく私に言いなさい。 私はいつでもニコルちゃんの味方だから」

「えっと……」

「喧嘩などするものか」

 ニコルを離そうとしないジェンナに業を煮やし、デュークは半ば強引にニコルを自分の元に引き寄せた。

「嫉妬深い男は嫌われるわよ。デューク」

「!」

「ニコルちゃん、今度是非一緒にお出かけしましょう。 甘いものが大好きなんですってね。 いい店を知っているわ。

チョコレートやアイスクリームがとっても美味しいの」

「本当ですか? ありがとうございます」

 すっかり不安もとれたニコルは、デュークの腕の中からニコニコとジェンナの話を聞いている。

 デュークの方は苛々とそんな二人を見ているだけだった。

 早く二人きりになりたいというのに……っ

 ニコルが本当に自分の腕の中に戻ってきた事を確かめたい。 二人きりで思い切りニコルを甘やかしてやりたかった。

 二度とニコルを不安にさせないように。 おかしなことを考えないように。

 そんなデュークの苛立ちを察しているだろうに、ジェンナはまだニコルとの話をやめようとしない。

 ちらりと横目でデュークを見ると、ふふと何やら意味ありげに笑った。

「そういえばデューク」

「……なんだ」

「式はいつ頃なのかしら。 何といってもクレオール侯爵の結婚式ですもの。さぞ盛大なものを考えているのでしょう?」

「!」

 思わずデュークは顔色を変えた。

 考えていなかった。 結婚式を挙げることなど。 貴族の結婚は許可証を国王からいただき、それに自分達のサインを

入れればそれで成立するのだ。 お披露目のパーティを開くことはあっても式など最近はどの貴族も挙げていない。 

よほどの大貴族でない限り………クレオール侯爵家は大貴族に入るのだが。

「まさか式を挙げないつもりじゃあないでしょうね」

 そんなデュークの様子を目ざといジェンナが見逃すはずがない。

「……いや、宮廷内で公布するつもりではいたが……」

「考えていなかったというの!?」

 信じられないといった顔でジェンナはデュークを睨みつけた。

「まさかお披露目のパーティも無しというつもりじゃあないでしょうね」

「いや………」

 デュークは言葉を濁し、目を逸らした。 それも考えていなかったのだ。

 すでにニコルは自分の妻だという思いがあるデュークは、そのようなことをする必要すら覚えなかった。 最初の出会いが

あのような形だったことにも原因があるが。

 しかしよく考えてみれば、正式にニコルを宮廷に披露すればこのようなことが起こることもなくなる。 他の貴婦人達がまた

おかしな真似をしないとも限らないのだ。

 デュークはそう考え、側のニコルを覗き込んだ。

「ニコル。 結婚式をあげるかい?」

「え?」

 突然そう言われ、ニコルは目をパチクリさせた。

「結婚式?」

「そう。 私と君の、ね。 皆に君が私の妻になったことを披露するんだ」

「皆って……ジェンナさんやエリヤ王子様達に?」

「それだけじゃなくて、私達の知り合いや友人や家族……」

「じゃあ、僕のお父様やお母様にも?」

 家族という言葉に、ニコルはぱっと顔を輝かせた。

「もちろん。 君のご家族もお呼びして盛大に行おう。 私も君のお父上やお母上にお会いしたいしね」

「うん!」

 結婚式がどのようなものか、実際に見たことがないニコルはあまりピンとはきていなかったのだが、しかし家族に会える

という言葉に嬉しさを隠せないでいた。

「デューク様、 大好き!」

 そう言ってデュークの体にしがみつく。

「私もだよ、ニコル」

 そんなニコルをデュークも優しい笑みで抱き締めた。

「…………ちょっと……」

 蚊帳の外に置かれた状態になってしまったジェンナは、目の前で繰り広げられる、まさしくバカップルのいちゃいちゃぶりに

これ見よがしなため息をついて見せた。

「あなた達、そんなことは邸に戻ってからにしてもらえないかしら」

「あ……」

 すっかりジェンナの存在を忘れていたニコルが、顔を真っ赤にして慌ててデュークから飛びのく。

「ジェンナ、お前も無粋だな」

 空になった腕を見下ろし、デュークは恨めしそうな目でジェンナを見た。

「はいはい、 なんとでも。 ニコルちゃん、 本当にまた是非遊びに来てちょうだい。 もちろん式には喜んで出席させて

いただくわね」

「まだ招待するとは言っていない」

「まあ、デューク。 まさかこの私を招待しないなんて、そんなはずはないわよね」

「……………ニコル、帰ろうか」

 ジェンナの問いに答えず、むすっとしたままデュークはニコルの肩に手を回すと、扉へと促した。 

 が、扉の前で立ち止まると、ちらりと振り向き、言った。

「………世話になったな。 礼を言う」

「どういたしまして」

 デュークの言葉に、ジェンナは華やかな笑みを浮かべて手を振った。